人もまばらになった学校で、私は少し早足になりながら校門へと向っていた。今日はこの後、何も予定はない。風紀の仕事だって今日は何故かないらしいし、ツナ達からの遊びの誘いもなかった。こんな時はゆっくりと家で再放送のドラマでも見ながらゆっくりと過ごすに限る。まぁ、私の運のなさのせいで放課後少しの間、先生に呼び出されてしまったのだけど(帰る時間が遅くなってしまう・・・・!)しかし、それも思ったよりも早く終わったので良しとしようとは思う。
部活をする人たちを横目に私は歩く。部活をしている人たちの声に、少しだけ青春だなぁなんて思えて私はどうなんだろうと疑問に思った。恋もできないような、忙しい毎日で私は本当に青春を謳歌しているのだろうか(私が恋だなんて、少し鳥肌が立ったけど)いやいや、これじゃあとてもじゃないけど青春を謳歌しているなんていえないな。まぁ、そんな毎日も嫌いじゃないから別に良いんだけど。あー、でも骸さんのセクハラまがいな言動はどうにかしてもらえると嬉しいなぁ。そんな事を考えながら、校門を出れば私の目に入ってきたのは、女子の塊だった
「(え、なんで?あんな女子の塊があるの?)」
その女子の塊が気にならないと言えば嘘になってしまうけど、私にとってはどうでも良い事だったので、気にせずとおりすぎる事にした。しかし前を通った瞬間に聞こえてきたのは「」と私を呼ぶ声。その声はどこかで聞いた事がある声で、私はまさかと思いながらその声のしてきたほうを見つめる。女子の塊の中央にいる、黒曜中の制服をまとった、彼だ(独特な髪型と、青色と赤色のオッドアイの瞳の、)
「む、骸さん?!なんでこんなところにいるんですか?!」
「クフフ、を待っていたんですよ。まぁ、案の定たくさんの女性に囲まれてしまったのですがね」
「(この人、今案の定って言った・・・・!)」
まるで自分が女子に囲まれている事が分かっていたかのような骸さんの言葉。正直なところ、うざったいことこの上ないが、事実女子に囲まれているので否定が出来ないのが悔しい。そうだよね、骸さんがどんなに変人だったとしても、そんなの顔見ただけじゃ分からないしね!顔だけ見れば、そこらへんにいるアイドルなんかよりかっこ良いし、女子に対する態度も紳士的だし、みんな騙されるに決まってるよね。そんな事、分かってる。分かってるけど、ムカつく・・・・!(みんな、大切なのは中身だよ。外見じゃないんだよ!)
「すいません、皆さん。僕はこの方との約束があるので」
「え、え、ちょっと、骸さんー?!」
「では、また」
骸さんはそういうと、その女子の塊を華麗にかわし、私の腕を掴み歩き出した。後ろでは、少しだけ私を罵倒する声が聞こえてきて、私は無性に悲しくなった。だって、骸さんを囲っていたのは私の学校の女生徒で明日の学校が恐ろしくてたまらない。靴箱に押しピンが入ってない事を心から祈っておく事にする(祈っても、それが叶う保障はどこにもないのだけど)だけど、私は骸さんと今日の放課後約束した覚えはない。今日の私の予定は、急いで帰って再放送のドラマを見るつもりで、骸さんと会う予定なんてなかったのに。
「(骸さんは一体何しに、私の学校まで来たんだろう・・・・)」
何も言わない骸さんの背中を見ながら、必死に骸さんが今日会いに来た理由を考えるけどこれと言って思い浮かびはしない。私は、思い浮かばないことに少しの歯がゆさを感じながら、骸さんに思うがままに引っぱられた、と思えば骸さんはすぐに立ち止まりこちらを向いた。
「、トリック・オア・トリートです」
「すいません、いきなりそんな事言われても何が言いたいのかなんて少しも、いや微塵も分からないんですけど」
「(微塵もって、)おや、はご存じないんですか?今日はハロウィンですよ」
「あ、そう言えば・・・」
骸さんの言葉に今日がハロウィンだった事を思い出した。しかし、何故ハロウィンだったら「トリック・オア・トリート」なんだろうか。うん、まぁ、理由は分かるよ。ほら、お菓子をくれなちゃいたずらするぞって言う事でしょ。いや、だけど、いきなりそんな事言う意味が分からないんだよ。それに、あんた何歳なんだよ(骸さんって雲雀さんと一緒で私の中では年齢不詳だからなぁ)とりあえず子供じゃないんだから、そんな事言うのはやめた方が良いですよ、骸さん。
「ほら、お菓子をくれないといたずらしますよ?」
「あはは、骸さんがいたずらって言うと変質者のおじさんみたいですよねー」
「それ、そんな爽やかに笑いながらいうものじゃないんですけど・・・!」
「・・・・とりあえず私、日本人ですからハロウィンなんて関係ないですから。それに骸さんって出身イタリアだったんですよね?イタリアってハロウィン何かするんですか?」
「さぁ、僕もハロウィンなんて今まで興味なかったですから」
今まで興味がなかったのに、どうして今この年になってハロウィンなんて言い出したんだよ。むしろ、小さい頃はハロウィンに興味があるもので、この年になったらハロウィンなんてどうでも良くなるものじゃないの?まぁ、骸さんに常識なんて求めたってないんだから、しょうがないとは思うけど。だけど、少しだけ今になってハロウィンに興味を持ったことが気になって私は、骸さんに問う。
「じゃあ、なんで今さらハロウィンなんかに興味が湧いたんですか?」
「そりゃ、がいますから」
「え?(私がいるからって、どうしてハロウィンに興味を持つようになるんだ?)」
「所詮、ハロウィンなんてことと会う口実でしかありませんよ」
先ほどの雰囲気とは違い骸さんの、真剣な言葉に私は思わず息をするのも忘れて骸さんの瞳をジッと見た。真剣な言葉、口調と同じように真剣な瞳に私は、今のが嘘じゃないのかもしれないと感じた。もしかしたら、嘘かもしれない。だけど、少しだけ嬉しくなったのも事実(骸さんの言葉で嬉しくなるなんて珍しいのに)私は、何も言えずに、視線を落とした。
「駅前の喫茶店で、ハロウィン限定のケーキが出ているんですよ。だから、それを一緒にと思いまして、今日は学校まで迎えに」
「・・・・学校に来るんなら連絡ぐらいしてくれても良いじゃないですか」
「ちょっとした悪戯ですよ。先ほど言ったでしょ、トリック・オア・トリートって」
お菓子をくれなちゃ、悪戯するぞって事で、と言いながら微笑む骸さん。その言い方だと、私が初めから骸さんにお菓子をあげれないことが分かっていたようではないか。もしも、私が偶然お菓子を持っていたらどうするつもりだったんだよ。お菓子をあげたのに、悪戯されるなんて理不尽じゃないかと言えば、骸さんは「その時は、その時ですよ」と微笑を深くしながら言った。確かに、その時はその時で別に連絡しないで学校に来たことに対して他の理由を考えればよいだけの話。だけど、私は骸さんに自分が振り回されているようで少しだけ、ムッとなった。
「おっと、時間がおしてますよ。行きましょう、」
「あ、ちょっと、待ってくださいよ、骸さん!」
さっきのように私の腕を引っぱるわけではなく、私の手を握り歩き出した骸さん。秋の少しだけ寒い風の中、骸さんの手は暖かくて私は少しだけ暖かさを求めるかのように骸さんの手を握り返した(こんなの私らしくないのに)それに、ハロウィン限定のケーキは捨てがたいし。なんだか、いいように骸さんの望み通りに自分が動かされている。まぁ、だけど、たまにはそんなのいいかもしれない。
「骸さん」
「何ですか、?」
「・・・・別に私に会いに来るのに口実なんていりませんよ。私は会う口実がないからって、骸さんと会わないなんてことはないんですから」
別に、骸さんの変人チックで少し(いや、少しじゃないかもなぁ)唯我独尊なところも嫌いじゃない。仲間として、骸さんもまた私の大切な人の中の一人だし。ただ、ちょっと、もう少し時と場所と場合を考えた行動をして欲しいだけだ。そんな事も思いながら私が言えば、骸さんが私の手を握る力が少しだけ強くなった気がした。そして、更に掌の暖かさが増したような気がした。
会いたいの気持ちに、口実なんて
(2007・10・30)
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