学校から帰る途中にあった、やな奴。悪い奴じゃないと分かっていても、私にとってコイツは天敵とも言える存在かもしれない。ツナの前じゃ、すっごく忠犬キャラなのに他の人になると態度が悪い(どうやったら、こんなに上手に人によって態度を変えれるんだよ・・・・!)しかし、正直嫌いというわけではない。だって本人はツナの為にやっていると思ってやっていることは、ほとんどツナにとっては迷惑だったりするんだけど、その事に未だ気付かないような馬鹿なのだ。こんな馬鹿を相手にするほど、私は子供ではないし、何だかんだ言いつつ目の前のコイツは優しいところもないわけではないから、嫌いにはなれない。
「チッ、なんでお前がこんなところにいるんだよ」
「(うわー、好戦的な発言。だけど、私は大人だからね、ここは大人らしい振る舞いをしなくては!)」
「・・・・さっさと俺の前から消えろ」
「(カッチーン!)はぁ?!なんで私がわざわざ獄寺の前から消えないといけないわけ?!消えるんならあんたが消えればよいでしょ!」
大人らしい振る舞いをしなくてはいけないと思っていたはずなのに、いつの間にか私は獄寺の挑発(と、言って良いかは分からないけど)に乗ってしまっていた。いや、だけどここでキレてしまったのはしょがない。誰だって、いきなりあって消えろなんて言われたらハラワタが煮えくり返るぐらいムカつくはずだ。うん、そうだ私が悪いはずがない。獄寺があんなこと言うから悪いんだ。それもなんだ、この態度は。いつもも確かに態度は悪いけど、これほど悪い態度なわけではない。今日はハロウィンと言う、子供なら盛り上がってもおかしくない日なのにこれほどテンションが低いなんて子供失格じゃないだろうか(まぁ、私もさっき今日がハロウィンと言う事をしったんだけどね)
「ったく、うるせぇんだよ!!この馬鹿女!」
「馬鹿ってなんだよ、この・・・・!」
この、と言う先の言葉は私は飲み込んだ。なぜなら、周りを歩いていた人たちが私と獄寺をすごい顔で見ていたから。私と獄寺はお互いの顔を見合わせて、この状況を察し無言で二人でその場を後にした(良かった、獄寺がこの空気を読めないほどの馬鹿じゃなくて!)二人で歩く、道は無言で少し居心地が悪かった。となりの獄寺の顔を見れば、まだ怒っているのか気難しい顔をして私はため息をつかざるを得なかった。何故、こんなにも獄寺は機嫌が悪いのだろうか。もう、このさいツナにでも電話して来て貰おうかとも思った。
「おい、」
「何?」
「・・・・さっきはいきなり、悪かったな。少し言い過ぎた」
「え、あ、別に良いけど」
思っても見なかった獄寺の口から出た言葉に私は、驚いた。獄寺が謝るなんて私にとっては珍しかったし、それに一番驚いたのは今の獄寺の表情だ。先ほどの怒っている気難しい顔はどこに行ったのか、今は少しだけ獄寺の顔が寂しそうに見えた(こんな顔、獄寺らしくもない)私はそんな獄寺の顔に少しだけ心配が募った。獄寺は、私に言いすぎたことに気兼ねしてこんな顔をしてるわけではなく、他に理由があってこんな寂しそうな顔をしているんじゃないだろうか。なんて、私の考えすぎかもしれないのだけど、それでも心配になった私は獄寺に問う。
「ねぇ、獄寺。獄寺はなんでそんな寂しそうな顔をしてるの?」
「寂しそうな顔なんて、してねぇよ」
「本当に?」
ジッととなりにいる獄寺の顔を見る。必然的に見上げるような形になり、少しだけ睨みつけるように獄寺の眼をみた。自分では気付いていないかもしれないけど、だけど、獄寺の顔は寂しそうだ。獄寺は私のそんな視線に耐え切れなくなったのか、眼をそらすと頭に手をやり、髪の毛を少しだけかいて、ハァと息を吐いた。
「・・・・ったく、のくせに鋭いんだよ」
「(えぇ、私のくせにってどういう事なんですか?!)」
「言っておくが、聞いても面白くねぇ話かもしれねぇからな」
一体、獄寺が今から何を話そうとしているのか私には分からなかったけど、だけど獄寺の真剣な瞳に私は頷いた。それに、別に私は獄寺の話に面白みを感じたいわけではない(いつも話すときだって獄寺の話が面白いと思うことは少ないしね!)私は、獄寺が今何故こんなにも寂しそうな顔をしているのかが気になったのだ。これはボンゴレのファミリーとか全然関係ナシに、何だかんだ言いつつも私が獄寺のことを仲間だと思っているからだ。仲間がこんな顔をしているのにほっとけなんて私には無理な相談である。
「俺が小さい頃、アネキがハロウィンだからって色々菓子を作って食わせてきたんだよ」
「・・・・は?」
「だから、ハロウィンは嫌いなんだ」
「(そんな理由で・・・・?!)」
獄寺の話を聞いた瞬間、私の肩に入っていた力がなくなった。いや、だって、こんな理由ってありかよって展開じゃないか!すっかりと暗くなった路上で、私は少しだけ放心状態になった。寂しい顔の理由がこれって、じゃあ、べつに寂しいって言うわけじゃなかったのかよ。でも、さっきの獄寺の顔は確かに、寂しい、と感じていた顔だったのに。
「ねぇ、獄寺本当にそれだけなの?」
「テメー、何が言いたいんだよ」
「他にも理由があるんじゃない?寂しい顔をしている本当の理由」
私が言えば、獄寺はグッと息を飲んだ。あぁ、やっぱり他にも理由があったんだ。だけど、それを私には言いたくはないらしい。それは、私に余計な気を回させたくないのか、それとも私を仲間としてみていないから言う必要もないと思っているのか。私は言いたくないことを無理に言わせるつもりは少しもないのだけど、もしも後者の理由だとしたら、少しだけ悲しい。自分だけ、仲間だと思っていたなんて、私も獄寺のことを言えないぐらいの馬鹿じゃないか。
「・・・・・」
「言っておくが、同情なんてするんじゃねぇぞ(そんな顔されたら言うしかなくなるだろ!)」
「うん、分かった」
「・・・・・・俺だってガキの頃は、ハロウィンだって嫌いじゃなかった。ハロウィンに母さんがケーキ作ってくれたりして、むしろハロウィンは好きだったさ。だけど、前にも言ったが俺の家は結構ドロドロの家庭事情なんだよ。それで、」
そこで少しだけ獄寺がその先を言うのをしぶった。何か嫌な事でも思い出しているのだろうか。獄寺の顔は悲痛にゆがめられていた。私は何も言わずに、そのまま次にでてくるであろう獄寺の言葉を待った。
「ハロウィンなんて、ただたくさんの菓子なんかを使用人が持ってくるだけになったんだよ。それが、無性にガキのころは寂しくて、今でもあんまりハロウィンは好きじゃねぇ」
「・・・・・」
「まぁ、この年でハロウィンで盛り上がれるような年でもないだろ?」
苦笑いという表現が一番しっくりくるような獄寺の表情。その表情には、諦めや、色々な表情が入り混じっているように感じた。今、獄寺はどんな心境なのだろう。私の家庭はごくごく一般の家庭で、獄寺の様にマフィアなんていうものとは無関係で生きてきた。だから、獄寺の言うようなことは実際、あまり分からないのが正直な感想だ。だけど、獄寺が今、寂しいと感じている事ぐらい分かる。なら、私は、
「よし獄寺、今度みんな集めてハロウィンパーティーをしよう!」
「?」
「悪い思い出は良い思い出で塗りつぶしてしまえば良いんだよ。みんなでお菓子でも持ちよって、盛り上がれば楽しいに決まってるから!!」
獄寺が、一年の中で寂しい顔をする日が少しでも少なくなるように、その思い出を良い思い出に変えれば良い。私はいつだって、一年間、笑っていたいと思うし、私の周りにいる人にも笑って欲しいと思う。獄寺は、少しの間私の言葉に驚いている様子だったけど、少しだけ表情を柔らかくして、笑った(あぁ、やっぱり獄寺は笑ったほうが良いと思うよ)暗い中、その顔だけはしっかりと見えた。
「ま、付き合ってやらねぇこともねぇよ、その計画。もちろん10代目もお呼びするんだぞ!」
「そうだね。それに、山本も呼ぼう」
「野球馬鹿なんて呼ばなくても良いだろ?!」
「いやいや、やっぱりこういうのは人数が多い方が良いんだから!そうと決まったら、早速帰ってみんなに連絡しないと」
私はそういうと獄寺に別れを告げて、家へと帰ろうと一歩を踏み出す。だか、何故か私の横に獄寺が並び、私は咄嗟に獄寺の顔を見た。
「・・・・今日だけ特別に、俺が送ってやる」
「あ、りがとう(珍しい)」
普段は見せない獄寺の優しさに私は少しだけ胸が暖かくなった。今度することになるであろう、ハロウィンパーティーの事を想像すると私の苦労は多い事だろう(今までの経験上、それは確実だ!)それにツナの苦労も多いかもしれない。とりあえず、ごめんねツナ。だけど、私は自分の苦労が多くなったとしても、獄寺のあんな寂しい顔は見ていられなかった。どうせなら、獄寺には笑っていて欲しい。それはツナも、山本も仲間として思っていることだと思う。となりを歩く、獄寺に、ハロウィンを好きになって貰おうなんて事は考えていなくて、ただ微笑んで欲しいと空で光る星達に願った。
寂しさを微笑みに、
(2007・10・30)
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