獄寺が
いだった。何でもできる獄寺が。私なんかじゃとても追いつけないところにいる獄寺が。クラスメイトにしては仲が良いほうで、彼との会話は楽しかったにも関わらず私は心の奥底で獄寺をっていた。自分でもたまに忘れてしまうような感情ではあったけれど、それでも、私が獄寺のことがいだったのは事実だった。どうして彼は何でもできるんだろう。私は彼にように何もかもスマートにこなすことはできない。努力をしなければ、何も勝ち得ることができないのだ。天才と秀才。なんて、ものではない。天と地、それほどまでに彼と私の間には壁があった。壁、と言うにはあまりに高く、厚いものではあったのだけど。だけど、私の親はそんな壁をこえるように強要する。その壁を越え、そして彼を超え、私に天才と言う地位を強要する。確かに、獄寺が転入してくるまで私はその地位にいた。誰もがうらやむ天才とまではいかなくても、私はこの学年での成績では一番だった。しかし、それも、獄寺が転入してからはいつでも2位。親はそれを嘆いた。1位ではない私はまるで自分達の娘ではないかのように。どんなに、私の成績が悪かったとしても血のつながりは否定できないのに、と思いつつ私はそれが悲しくて寂しかった。1位ではない私は、私として認められていなかったらしい。獄寺の登場は、私のそのことを自覚させた。私は馬鹿ではないから、彼のせいで自分が不幸になったのは思わない。でも、きっかけを作った彼を嫌うぐらい神様は許してくれるだろう。所詮、人の気持ちなんて、個人の自由なのだから。この右の頬だって、獄寺のせいで叩かれたと思えばまだ痛くないと思える。



「だったら、お前の
が少しでも痛くなくなるんだったら俺のせいだと思えば良い」



ズキズキとまだ痛む頬を押さえ制服のまま家を飛び出した私を誰よりも先に見つけてくれたのは獄寺だった。私はそんな獄寺に八つ当たりするかのごとく、すべてを吐いた。獄寺はその言葉を聞いても、怒ることなんてしなかった。そして、今の言葉を私に言った。私は獄寺のせい、にしたかったわけじゃない。獄寺のことは
いだった。でもきでもあった。その好きが友人としての好きなのか、恋愛としての好きなのかと聞かれれば私はきっと恋愛として獄寺がきだったんだと思う。いつもは大人でも恐がらせるような顔で睨んでいるにも関わらず、笑えば子供っぽく笑う獄寺がき。でも、私は親に愛されたかった。獄寺を超え、再び1位をとればその愛情は返ってくると信じていた。いや、今でも信じている。だから、そんな、気持ち邪魔でしかなかったんだ。夜、獄寺のことを思って眠れない夜なんて私にとっては邪魔で、獄寺のことを思って勉強が手につかなくなるなんて私には許されなかった。



だけど、私がどんなに勉強しても彼には敵わない。通知表に再び1位と記される事はない。もう私の通知表には2位という文字がいくつも記されている。そして、それを見た親は私の頬を容赦なくぶった
「なんで、1位がとれないの?!」「勉強してなかったんじゃないの?!」勉強はした。たくさんした。それでも、私は彼に勝てなかった。これはすべて獄寺のせいなんかじゃない。これはすべて私のせい、なのだ。親に愛されないのも、どんなに勉強しても1位がとれないのも



「獄寺なんて、
い」

「・・・・あぁ」

「獄寺がいなければ、私は親に
されたままだった」



そんな事はない。獄寺がいようと、いなかろうと、私は結局のところ親に愛されてはいなかったんだ。時刻は既に夜の10時を回ろうとしている。私の親が、家を飛び出した私を捜しにくるとはとても思えやしなかった。愛されていない子供の結末なんていつも一緒。子供はいつも親に捨てられる。私もきっと捨てられてしまうんだろう。そう思うと、私は少しだけホッと安心を覚えた。確かに私は愛されたかった。でも、自分の睡眠や、やりたいことを削ってまで勉強に注ぐのはもう限界だった。そして、もう獄寺のせいにして獄寺から逃げるのも限界だった。



「そう言えば獄寺は満足?」

「なっ・・・?!」


「これはすべて私のせいなんだ。誰でもない私のせい。親の偽りの愛に本当は気づいていたし、私がそのことに気づかないフリをしていただけ。だから、獄寺のせいなんかじゃない。この痛みはすべて自分がもたらした結果なんだよ。獄寺が気に留める必要なんて、ない。それに、本当は獄寺のことも
いじゃない。嫌いだった、とは言ったけど、嫌いと思うことで自分を保っていたかったんだ。獄寺を敵だと思うことで、自分は必死になって勉強する事ができた」



獄寺のせいにしても、生まれるものはただの哀れみだけだった。そろそろ私は親に愛されていない、と言う現実を見なくてはいけない。家に帰るのはとてつもなく憂鬱ではあったけど、獄寺に少しでも話を聞いてもらえたことで私の気持ちは軽かった。私の親はもうこの先も私を愛してくれる事はないんだろうか。愛してほしい、とは言わないけど、2位である私も認めてほしいと思ったのは紛れもない事実だ。親の愛は確かに私のほしいものだった。子供の頃から、お母さんとお父さんに愛される綱吉が羨ましくて羨ましくて仕方がなかった。でも、もう良い。子供にとって親は絶対であったけど、今は違うから。今は親の愛よりも、誰よりも大好きな人からの愛がほしいと思う年齢になった。



「私は親の愛より、獄寺の
がほしいと思うよ」


だから、勉強する時間も獄寺のことを考えたいと思うし、睡眠の時間を少しぐらい削っても獄寺を想っていたい。そりゃ、勉強だってするけど、もう必死になって勉強したくはない。それよりも、好きな人のことを想う時間の方が大切の時間のように思えた。有意義ではないのかもしれないけど、私にとってはかけがえのない想いを募らせる時間。



「俺の
は今までだって、にしかそそいでねぇよ」

「そんなの初耳、」

「あぁ、今初めて言ったからな」



」と名前を呼ばれて私は声の先を見た。そこには私の両親の姿「何が
されてねぇんだよ」と微笑む獄寺を、とりあえず両親に紹介しておこうか、と思った。私は彼のことを考えると夜も眠れないし、勉強にも手につかなくなるんです。なんて、そんな事言ったら私の親はどんな反応をするんだろう。それに獄寺の反応も気になるところだ。僅かに頬が赤くなるのを感じながら、私は今までの自分の考えを改めた。私は親に愛されてないことなんてなかった。ただの、私の勘違いだったんだ。さっきまで親のより大好きな人からのがほしいなんて思っていたのに、私は親のを感じ、とても嬉しい気持ちになっている



「獄寺、大好き」



親から愛情をもらっていないと思っていた私だけど、それを獄寺のせいにしていた私だけど、それでも獄寺は私を好きでいてくれるんだろうか。そんな事を考えていれば獄寺が私の背中を押した「ほら、行けよ」と言う獄寺に私は素直に従い両親のほうへと向った。ちらり、と獄寺のほうを見ればいつものような子供っぽい笑みなんかではなくて、柔らかい微笑をこちらに向けていた。私は愛が欲しかった。でも、親の愛のかわりに獄寺の
が欲しかったわけじゃない。それだけは明日しっかりと伝えよう。




代わりのない










(2008・03・20)