犬、時々狼
真田先生も狼でした
(某は、な、何を……!)
今、この教室には私だけしかいない。猿飛先生も伊達先生もあの電話のあと、この教室からでていってしまった。伊達先生の意味の分からない言葉のあと、携帯は真田先生のほうから切れてしまい、二人はそれに満足したかのように笑みをうかべあうと私をここにおいて職員室へと帰っていった。
「すぐに旦那が来ると思うからちょっと待っててね」
教室を出て行く時に猿飛先生が私に言い残した言葉。
何だか、結果として真田先生を騙したような気がしてならない。それも、あのつらそうな真田先生の声を聞いた限りではここまでくるのも大変だということは分かりきったことで、申し訳ない気持ちで一杯だった。
まぁ、でも。
本当に真田先生がここに来るかなんて分からない。
電話は切れただけで、真田先生はここへ来る、なんてこと一言も発してはいない。もしかしたら途中で気分が悪くなって電話をきってしまったということも考えられないこともない。
昨日の告白のあとみたいに期待して、今日みたいなことになったら嫌だなぁと思って期待しないようにと自分に言い聞かせても、気持ちが落ち着くことはなく視線は徐にドアのほうへとむけていた。
視線をゆっくりと動かして、教室の前へと飾られている時計を見る。電話が切れてから5分。猿飛先生の淹れてくれたお茶はもう既に冷め切っていた。みたらし団子も、なんだか食べる気がせずに置いてあるだけで手をつけようとは思えない。
昨日の夜からろくに晩御飯たべてないことを思い出して、自嘲染みた笑みが浮かんできた。
本当に、自分でもどうしようもないくらいに真田先生が好きなんだ。自分のことにも関わらず、まるで他人事のように私は考えていた。
(……?)
どこからともなく聞こえてくる音。段々と近づいてきているのか、大きくなってきている音に私は体を強ばらせた。何の音かは定かでないけれど、聞いている限り足音みたいだ。それもやけに聞き覚えのある足音のように思えて仕方がない。
どこで聞いた?自分へと問いかけながら記憶を探る。
どこで?(学校で、)いつ?(きっと毎日だ)
そしてその足音の一番新しい記憶は昨日。今とは違い、その音は遠ざかって行くものだったけれど確かに私はこの足音に聞き覚えがあった。そんなまさか、とは思っても高鳴る心臓は私の気持ちよりもよっぽど正直で私はいつの間にか立ち上がりドアのほうへと駆け寄っていた。もうすぐそこまで来ている足音に気持ちが溢れでる。
手をのばしてドアを開けようとした瞬間、私がドアへと触れる前に勢いよくドアが開いた。咄嗟のことに反応できずに、そのまま手を引っ込めることもできず、呆然と立ちすくむ。
肩で息をしながら、こちらをまっすぐに見つめるのは真田先生だ。
「殿、大丈夫でござるか?!」
「え、」
ガシリと掴まれた肩。真田先生が本当にこちらを心配した表情で見つめるものだから、今更ウソでしたなんて言いにくい。しかしながら、本気で私に手を出したと思われる伊達先生の人間性をちょっと本気で疑いたくなる。まぁ、でも真田先生のその気持ちも分からなくはないのだけど。
真田先生があまりにも真剣な表情で見つめてくるものだから、嫌でも昨日のことを思い出してしまう。
「大丈夫ですよ。さっきのは伊達先生の冗談ですから」
声が震えてしまいそうになるのを抑えて平然と言い切れば、肩に手をしたまま真田先生はハァと息をついた。良かったでござる、と耳を澄まさなければ聞こえないような声が私の耳に届き、思わず顔をあげる。まっすぐにこちらを見つめてくる真田先生の顔が赤い。熱のせいなのか、違うのかなんて私には見分けることが出来ずにただただ真田先生を見上げた。
私からは何を言って良いのか分からない。
でも、さっき言いたいと思ったことがあった。昨日から、あの言葉を聞いてからずっと言いたいことがあった。
「真田先生、私も真田先生のこと大好きです。」
先生としても好きだけど、ずっと一緒にいてほしいって思うような好きなんです。
はっきりと告げた言葉は、私の今まで蓄積させていた想いをすべてのせていた。目を丸くした真田先生は、さらに顔を真っ赤にさせながらも嬉しそうに笑うものだから一気に私の顔にも熱が集まってくる。
なんで、こんなに嬉しそうに笑ってくれるんだろう。でも、私も真田先生につられるかの如くいつの間にか笑っていた。
「殿、折角某は教師失格だ」
「真田先生?」
「殿と同じ気持ちで、嬉しくてしょうがないんだ」
真田先生はそう言うと教室の中に足を踏み入れ、ドアを後ろ手で閉めると私の体を抱きしめた。純情青年だと思っていた真田先生のいきなりの行動に言葉にならない言葉が口から出るが、そんな私にお構いなしにギュッと真田先生は抱きしめる手に力を込める。死ぬ!いろいろな意味で死にそうだ!心臓だって先ほどの何倍以上も早く、脈打っている気がする。
どうすれば良いのか、なんて礼愛経験知ゼロに等しい私に分かる訳がなく、なす術もなく真田先生のされるがままだ。
だけど、少しだけ気持ちが落ち着いて私の手持無沙汰にしていた手で真田先生の来ていたワイシャツを、弱弱しくもつかんだ。私のその行動に、真田先生は抱きしめていた手に力をぬくとそっと体をはなす。
おもむろに伸ばされた手は、頬へと添えられ影が、できた。
とても小さな呟きがすぐそばで聞こえる。あまりにも甘美な声色に、まるで飲みこまれそうな気分へと陥った。
「、」
そっと触れたのは正真正銘、真田先生の唇で。自然と自分の手はそれが触れたところへと移動し、私は自分の唇を手で覆った。間違いなく、一秒に満たない時間だと言っても、真田先生の唇は触れた。真っ赤になる顔。そして、目の前では真田先生がハッとした表情を作った後、土下座でもする勢いで謝ってきた。
どうやら本人も無意識のうちにしていたらしい。でも謝られても、困る。
だって、嬉しくてたまらない。
(えぇ、ちょ、落ち着いてください、真田先生!)
(2009・08・02)
一応、純情青年な真田先生。唇へのキスはまだまだ先になりそうです^q^ついでに言うとこれ以上の発展も。一応、付き合いだした感じでございます。
続編を!と言う言葉をいくつか頂いて、そしてこまっちの素敵真田先生のイラストに我慢ができずに書きあげてしまいました(笑)猿飛先生と伊達先生は友情出演です。
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