虹のふもと
小降りになった雨。このまま行けば、直ぐに止むだろうと思いさしていた傘をかたむけ空を見上げた。案の定向こうの空の雲の合間からは零れるように日の光が差し込んできている。そして、虹、も。
七色に光る虹は見る人によれば綺麗だと感じ、現に隣に立つ彼女はその虹に目を奪われているようにも見えた。
虹なんてものはただの光の屈折からうまれたもの。
それが滅多に現れないからこそ人はそれに魅了されて綺麗だ何て言葉を紡ぐ。あんなもののどこが綺麗なんでしょう。ただ光の屈折から七色に光っているだけのものが。汚れているこの世界の中綺麗なものなんてありやしないのに。綺麗だ何て感じるのなら、それはただの勘違いだ。
それに綺麗だなんて、感情を僕は知らない。六道輪廻をまわるなかで見てきたものはこの世の汚いものばかり。僕はこの世に綺麗なものがあるだなんて知らなかった。
それなのに、僕の隣に立つ彼女に虹が綺麗ですね、と言われてしまえば、僕もえぇ、といって頷くことしかできない。
何故か彼女が綺麗だといえば、今まで興味もなかったものが綺麗に見えるから不思議だ。
これは多分君と一緒に見るから綺麗と感じるんでしょう。
「骸さんは知ってます?虹のふもとには宝物が眠っているんですよ」
「あぁ、その話なら聞いたことがあります」
幼き頃に蓄えた記憶を掘り返しながら、思い出す。あの時の僕はそれを知って何を思っただろうか。確か、そんなことあるわけがないのに、と思いながら嘲笑ったはずだ。
そもそも虹にふもとなんて存在はしないし、僕にとって宝物だと思えるものなんて存在しなかった。金や宝石なんて僕にとっては宝物ではなく、僕が望む物なんてマフィアの殲滅だけだった。
"だった"と言うのは、もうそれが過去形だと言う証拠。
「じゃあ、骸さんにとって宝物ってなんですか?」
に聞かれて思わず戸惑ってしまったのは、何も思い浮かばなかったわけじゃないから。思わず宝物なんていわれて思い浮かんだものに、自分自身可笑しかった。
「僕の宝物は秘密ですよ」
まさか、この僕が宝物なんていわれて思いうかぶものができる日がくるなんて思いもしませんでしたよ。
こんなことを思えるようになったのも隣に立っている彼女の影響に違いない。あの日僕らが犯した罪を彼女は責めることなく笑顔で受け止めてくれた。
おかえり、といってくれた彼女に人からの優しさなんてうけたことがないであろう犬や千種、そしてクロームがどれだけ救われであろうか。もちろん僕だって彼女にとても救われていた。
「の宝物は?」
「私ですか?」
驚いた顔をしたは視線を僕から、虹の先へとうつした。その手にある傘は今はもう閉じられている。雨がやんだことを確認して僕も指していた傘を閉じた。
そして、僕も視線を虹のふもとへとうつす。
ふとが笑ったような気がして再び僕の視線はへと戻っていた。僅かな笑みを浮かべた横顔は、雨のふったあとの雫が日の光に反射する世界でキラキラときらめいているようにも見えた。
「骸さんと同じものですよ」
虹のふもとには宝物があると言うのなら、そこにはきっと僕の"仲間"が立っていることでしょう。そして、きっと君もその場所にたっている。
僕の愛おしくも大切な君が。
(2008・11・11)
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