雨垂れの音
練習の帰り道に突然雨に降られ、屋根のある店の軒先で雨宿りしていた。空を見上げても灰色の空から降ってくる雨は止む気配をみせずに、少しだけため息が零れる。
このままここで待ってもどうせ、雨が止む気配は見られない。
それなら潔く諦めて、走って帰ったほうが良いのかもしれない。
それに、馬鹿は風邪ひかないの言葉通りか今まで風邪を引いたことなんて数える程度。それなら、と思い走り出そうとした瞬間に雨宿りをしていた店からカランコロンと音がして俺の視線は思わずそちらへとうつった。僅かに濡れた自分の髪から、雫が滴り落ちた。
あ―――
二人の視線が交わる。俺の視線の先には、目を丸くしたがドアを開けて立っていた。驚いたその顔が、瞬時に眉間に皺をよせた表情をつくる。
少しだけ不機嫌そうに見えるのは俺の勘違い……では、なさそうだ。
「山本?」
「よっ」
眉を寄せたまま話しかけてきたに俺は返事を返した。やっぱり不機嫌そうな声に内心首をかしげながら、を見ていれば「傘は?」と聞かれる。もちろん、練習の帰り道に突然雨に降られた俺が傘をもっているわけがない。それに傘がないからこそ、この軒先で雨宿りをしていたのだから。
でも、そのおかげで普段は二人きりになんて滅多になれないと二人きりになれた、のだけど。
僅かに上がる心音。しかし、そんな俺の気持ちとは相反するかのようにの表情は変わらない。これがもし俺ではなくツナだったら、お前は笑うのかな。
少しだけ嫉妬地味た感情がうかび、苦笑が零れた。だけど、は俺よりもツナと一緒にいるときのほうが安心したように笑うから、そう思ってしまうのもしょうがない。
何度その笑みを俺に向けてくれれば良いのに、と思ったことか。
「傘もないのに、この雨の中走り出そうとしてたの?」
「ま、走れば家まで5分もかからないしな」
「いくら山本が馬鹿だからって、この雨の中じゃ風邪ひくでしょ」
俺の答えにはため息を一つして、はっきりとそういった。馬鹿、だなんてはっきりといってくるのは女子ではくらいだけだ。それでも嫌な気が全然しないのはが本当には俺の事を馬鹿にしてはいないからだと思う。
獄寺のようにから野球馬鹿、なんて何回も言われたことはある。呆れた表情で、それでも笑みをうかべながら言われるその言葉が俺は嫌いではなかった。
「ほら」
が傘をさして、雨の中を一歩踏み出し俺を振り返る。「しょうがないから、送ってあげる」と言われた俺は笑みを浮かべながら、の握る傘の柄を掴みの隣に立った。
「サンキューな」
「どういたしまして」
やっと笑ってくれた
きっとは俺が雨の中にも関わらず走り出そうとしたことに不機嫌に眉を潜めていたんだろう。は良い奴だから。俺の体の心配をしてくれたことがたまらずに嬉しくて、先ほどまでツナに嫉妬していた自分が馬鹿みたいだった。本当に単純な自分が馬鹿らしすぎる。
馬鹿は風邪ひかない、なんて言うけど風邪をひいたらは見舞いに来てくれるんだろうか。隣であるくの歩調にあわせながら、野球の道具が入った鞄を軽い直しながらそんなことを考えれば思わず笑いそうになってしまった。
風邪なんて引いたら野球の練習ができないのにな。
でも、野球よりのほうが大切で、愛おしいのだからそんなこと考えてしまうのも仕方がないのかもしれない。
(2008・11・11)
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