流れていく気持ち
ガードレールに腰を下ろし、降りしきる雨の中俺は自分の少しだけ白くなっている息を見つめた。何気なく腰を下ろしたガードレールは既に水に濡れていて、冷たい。しかし、俺はそれでもあまり気にはならなかった。
10代目達といないときの俺はいつもこんな感じだ。何も気にかけることなんて、しない。そう思って俺は自分の思った言葉に首をかしげた。
何故、10代目達なんだろうか。"10代目"だけではなく。
よくよく考えてみれば確かに10代目以外の奴らといるときも俺は、今のこんな感じではない。こんな風に何事にも無関心なことはなく、いつも何かを気にかけてるような気がする。今はその、何かが分からない、が。
イタリアにいることは一人でいるのが当たり前で、確かに怒鳴ったりすることはあったが、今のような怒鳴り方ではなかった。以前はちょっとしたことにもイラついて、心のそこから憎んでいた。周りの大人や、この世の中を。
だけど、今はそんな憎しみなんて気持ちは俺の中から消えてしまってどこかに行ってしまった
この流れていく雨のように、その気持ちがどこへと消えてしまったのか俺は知らない。でも、それでも良いと思える俺はいつの間にか丸くなっちまったみたいだ。
これはきっと10代目の影響だけでなく……認めたくはないが他の奴らの影響もあるんだろう。
「水も滴る良い男って奴?」
「……何言ってんだテメーは」
いきなり俺の目の前に現れたを睨みつけても目の前の女はただ微笑みをこちらみ向けることしかしない。これはが他の奴らとは違うのか、それとも俺の睨みが勢いをなくしたのかはどちらなのかは俺は知らねぇ。だが、目の前の女が今まで会った奴とは少し違うのはいつも感じてることだ。
「傘はどうしたわけ?こんなに雨が降ってるのに濡れてるのも気にせずこんなところにいるなんて、濡らして下さいって言ってるようなもんじゃん」
「お前には関係ないだろ」
大概の奴らやこう言って一睨みしてやれば、どこかに行くのには動こうとしない。あまつ「なんか、知らない顔をできないし、これ使って」と言いながらこちらに一つの傘を取り出した。はもちろん傘をさしているにも関わらず出てきた傘。
「お前一体何本傘持ってんだよ」
「いや、たまたま鞄に折り畳みが入ってたんだよね」
そう言って、ずいっと傘を差し出され俺は渋々それを受け取った。
「……礼は言わねぇからな」
「はいはい。むしろ、獄寺がお礼を言ったほうが気持ち悪いから別に気にしないでよ」
いつもと変わらないやり取りをしながら俺は立ち上がり、から借りた傘を開く。そして、どこに行くかなんて言ってもないにも関わらずいつの間にか隣を歩き出したと肩を並べて歩いていた。だが、俺とが一緒に向かう先なんて一つしかない。
「どうせ、ツナのところに行くんでしょ?ついでだから、私も行くよ」
「10代目のところに行くのがついでってどういうことだテメー!」
俺がそう言えば言葉のあやだよ、あや。と言ってが半ば無理やりに会話を終わらせた。そして「もし、私が傘を持ってなかったら相合傘だったかもね」とが唐突に言った。
お前なんかとそんなことするぐらいなら、と言おうとして俺は言葉に詰まった。俺は今、何を思った?
なら別にそんなことしても良いかもしれない、と思った。
そんなことを思ってしまった自分に自嘲じみた笑みがこぼれそうになる。誰かと一緒の傘に入るだなんて、そんな事これまでも、これからもないと思っていたはずなのに。それも、に対してだなんて。いや、これもきっと雨のせいなんだろう。雨のせいでこんな可笑しなことを考えてしまうんだ。
ポタリ、と自分の髪の毛から落ちていく雨の雫を見つめながら、俺の中でもしかしたら大切な奴ら、と言うものが増えていってるんじゃないかと今まで考えたこともないことを考えていた。
(2008・05・04)
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