変わらないもの
大きな音と共に俺はいつの間にかボンゴレの屋敷ではなく、いつの日か見たことのあった場所へと立っていた。一瞬、放心してしまったがぽたっと顔に当たり意識を取り戻す。そして、顔を上げ空を見上げれば空からは勢いよく雨が降り注いでいる。
いきなりのこの状況。もう何度も俺はこの状況を経験したことがあった。俺のいたボンゴレの屋敷の窓の外はこれでもか、と言うくらいに晴れわたっていたのに。
「(また、子供の俺か……)」
きっと、子供の俺がこの雨の中10年バズーカを誤って発射してしまったんだろう。そんなことが容易に想像できるぐらいに俺はここ最近、10年前の過去へと何回もやってきていた。まったく、自分の子供の頃ながら少しだけ苛立ちが募りそうだ。
だけどそれ以上に今まで折角、彼女と会話を楽しんでいたというのにそれを邪魔されてしまったことの方に尚苛立ちが募る。
少しだけ肌寒くなった俺はあたりを見渡した。どこか雨宿りできるところがないだろうか、と思って見ていれば交わる視線。その瞬間に、先ほどまで一緒にいた、いや正しくは一緒にいたのは10年後の彼女なのだけど、視線が交わった相手が俺に駆け寄ってくる。
「ランボくん?!」
「おや、若かりし時のさん、じゃないですか」
どうしてこんなところへ?と紡ぐ間もなくさんは「どうしたの?!」と俺のほうを心配したような眼で見てくる。俺が「どうやら子供のときの俺がまたやってしまったようで」と苦笑交じりに言えば、彼女も直ぐに納得した。これも、恒例となってしまったいつものやり取りとなんら変わりがない。
ただ、いつもと違うのはこの場にボンゴレや他の人たちがいない、と言うことだけだろうか。
「そっか、それは災難だったね」
「災難なんて問題じゃないですよ。まったく……」
でも、さんに会えてよかったです。と言えば、さんはゆっくりと微笑んでくれた。そして、さんは鞄の中から彼女のものと思われるタオルを取り出すと俺の方へと差し出し、「これで拭かないと風邪ひくよ?」と言う。けれど、さすがに俺は受け取るのに戸惑ってしまう。
さんのタオルを濡らしてしまうなんて俺には……しかし、そんな俺の態度に彼女は眉を寄せると、タオルを俺の顔へと押し付けた「人の好意はちゃんとうけとろうね、ランボくん」と、微笑むさん。あの、目が笑ってないんですけど……。
だが、こんな風に言われてしまっては受け取らないわけには行かず俺は彼女の手からタオルを受け取った。一つの傘のなか、彼女は俺の身長に合わせて傘を少しだけ上の方へと伸ばしてくれている。
「ありがとうございます」
「いやいや、お姉さんの言うことはちゃんと聞かないとね」
「お姉さんって……今の俺はさんより年上なんですよ?」
そうだ、今のさんと俺の間には年の差なんてほとんどない。10年後に戻ればできる年の差なんて、今の俺とさんの間にはないんだ。そう思うと少しだけ10年後に戻りたくなくなった。いつも彼女からされる子供扱い。
それも嫌いではないけれど、俺だってもう子供ではない。だが、「それもそっか」と微笑んでいるさんを見れば、自然と俺も笑ってしまう。
「あっ」
と言う声と共に再び自分をつつむ大きな音。目を開けてみてみれば、そこは先ほどの雨の降っていた並盛ではなく、ボンゴレの屋敷内。あぁ、戻ってきたんだと思うと同時にさんの「ランボくん、大丈夫?!」と言う声が聞こえてきて。俺は僅かに頬が緩んだ。
10年前のさんも、今のさんもまったく変わらない。先ほどまで、この時代に戻りたくないなんて考えていた自分が馬鹿みたいだ。どの時代のさんも、さんに変わりはないのに。
「今、タオルもってくるから待っててね!」
走り出すさんの後姿を見送りながら、俺は10年前のさんから借りたタオルを握り締めた。今度、子供の俺がいつ10年バズーカを撃っても良いように洗って、いつもみにつけておこうと考えながら。
(2008・05・04)
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