雨のつくる世界






突然降り出した雨に歯向かう術を知らず、僕は足早に学校への道を歩いていた。まったく、いきなり雨が降り出すとは。折角良い気分で群れた奴らを咬み殺していたというのに、面白くない。制服に染み込んでいく雨は段々と増し、制服は重みを増していた。そんな重み、どうってことがない。だが、雨で髪の毛が顔に張り付いたりしてくるのは面倒この上なく、僕は静かにため息をついた。傘を買うのも煩わしい。


立ち止まり、髪の毛をかきあげて、空を見上げる……まだ、やむ気配は到底見られない



「(まったく、風紀委員も使えない)」



こんなことなら見回りにいくのをやめておけば良かったと思う。こんなことなら風紀委員の奴らにまかせておけばよかった。そうすれば、わざわざ僕が濡れることもなかったと思うのに。チッと舌打ちしたところで雨がやむわけではない。こんなことしてる暇があるなら、さっさと歩いて帰ったほうが身の為だ。

人通りの少ない中を歩いていく。突然降り出した雨のせいか傘をさしている奴は少ない。それに、傘を持ってない奴らは走って、道を駆け抜けていった。




そして、一つの傘が僕の目へと飛び込んでくる。一度も見たこともない傘なのに、僕はそれをさしている人物が誰なのかすぐに分かってしまった。それと同時に動き出す足。バシャッと水溜りの水が思いっきりはねることも気にせずに僕はその背中を追った。

雨音で彼女の耳に、僕の足音が聞こえることはないんだろう。彼女は僕に気づきもせずに歩みをとめることをしない。追いついて、濡れた手で肩を掴めば彼女は驚いた顔をして僕を見上げた。



「えぇ、雲雀さん?!な、な、なんで、こんなところに、」

「僕がいたら悪いわけ?」

「そんなこと言ってませんよ!……って、びしょ濡れじゃないですか?どうしたんです?」


「それ、本気で聞いてるの?」



こんな雨の中傘も持たずにいれば濡れるのなんて当たり前じゃないかと思っていれば彼女の口からは「いや、すいません。でも、雲雀さんだったら他人の傘だろうと問答無用で奪って自分のものにするんじゃないかと、」と言う言葉が聞こえた。小さい声で言ったとしても聞こえてるんだけど、と思いシャキンッとトンファーを取り出せば彼女は必死の形相ですみません、を繰り返した。


その光景に思わず口端があがる。本当に、面白い―――




「すみません、すみません!!もう、本当調子に乗りすぎたと言いますか、いや、もう冗談に決まってますから!本当すみませんでしたぁぁぁ!」

「まさか、ただで許されると思ってないよね」



僕がそういえば目の前の彼女は顔を一気に真っ青にした。予想通りの反応だよ。僕はそう言うと、彼女の手から傘をとる。そして、傘をさした。僕と、彼女に雨があたらない状態にして。彼女の顔が驚きに満ちた顔になった。本当によく表情が変わる。この僕が少し関心を覚えるぐらい。


「じゃあ、並中に行くよ。あぁ、あと君の仕事も溜まってるみたいだから頑張りなよね」

「いやいや、頑張りなよね、じゃないですよ!私、今日風紀手伝う日じゃないんですから!!私はこれから、ケーキを買いに行くと言う大事な指名があるんです!」

「・・・・・・・そう言えば、今日、校長から君がこの前好きとか言ってたケーキもらってたんだけど」

「ほら、何してるんです雲雀さん!さっさと並中に戻りますよ!」



あまりに単純な彼女。そして、一つの傘の中いつもより近い彼女との距離「」と呼べば「なんですか、雲雀さん」と返してくる声。雨音で周りの音はかき消され、人が少ない道で、僕はもう少しだけ、雨が降り続けば良いのに、と思っていた。














(2008・04・12)