さしこむ光
雨が俺の体を濡らす。そんなこと気にもせずに俺は歩いていた。ふと俺は足を止め空を見上げる。暗い空から降り注ぐ雨は未だ止む気配をみせずに俺の顔へと落ちていく。どんよりと曇った空に、俺の心まで何故か暗い気分になってしまいそうだった。
別に何か嫌なことがあったわけじゃない。なのに、何故か俺の気分は落ちていく。
「あれ、ツナだ」
そう言っては俺のほうに自分のさしていた傘を傾ける。雨が遮られた俺とは違い、が雨へと濡れる。の頬を流れる雨の粒を見て、俺はその時やっと意識を覚醒することができた。あぁ、そういえば、俺……何してたんだっけ。
自分が何をしていたのかさえ分からなくなっているなんて末期だ、と思いながら俺は今までの自分の行動を思い出す。特に用事もなく街を歩いていれば、突然降りだした雨に傘を持ってなかった俺はただどうすることできずに、走って家へと向かうこともせずに歩いていたんだ。そうだ。そして、見上げた空に、俺は、何も思うことなくただ、自分は何をしているんだろう、と虚しい気持ちになっていた。
だけど、今はが目の前に現われて俺が濡れないようにと傘を向けている。
落ちていた俺の気分に、僅かに光がさした気がした。
「が濡れてるって!」
ハッと今のを見て、やっとのことでだした声には一瞬あっけにとられながら「ツナだって濡れてるじゃん」と笑った。その間も彼女の髪に雫が伝い、落ちていく。
俺は彼女の手ごと傘の骨をつかむと傘をのほうへと向けた。の表情がわずか驚いたと思えばすぐに、眉を寄せた。
「ちょっと、ツナ何してんの?」
「が濡れたら困るだろ!」
「いやいやいや、ツナだって濡れたら困るでしょ」
「俺は別に、」
大丈夫だからと言おうとした瞬間にの手ごと傘を握っていた手に僅かに痛みが走る。「いって」と思わず声にしてしまった事に恥ずかしさを覚えながら痛みの走った腕を見てみれば、が俺の手を叩いていた。そして、俺の手から、傘の柄が離れた。それと同時に、また俺をぬらしていた雨はやむ。だけど、今度は目の前のも濡れてはいなかった。
一つの傘に、俺と。僅かに近くなった皐月との距離。
「ほら、これで二人とも濡れないから。今まで送ってくよ、ツナ」
「いや、それって普通逆……」
「大丈夫!私よりツナの方がきっと危ない人に狙われてるに違いないから!」
「(それって大丈夫じゃないから……!それも、なんか否定できないのがつらい!)」
よし、行こう!と歩き出したのとなりにならび俺は歩き出した。僅かに濡れる左肩と同じように、の右肩も濡れていた。いつの間にか笑いながらと会話している自分を見て、俺は自分のことながら単純だと、考えていた。今はまだ雨が降っているけど、それでも、すでに俺の心は晴れきっていた。雨はあんまり好きじゃない。
でも、こうして二人で肩をならべて歩けるのなら、嫌いじゃないのかもしれない。
(2008・04・12)
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