イヤだイヤだという私の訴えは見事無視され、私はツナから重要書類が入っている封筒を手にヴァリアーの屋敷を訪れていた。
ボンゴレ本部と違い重々しい雰囲気が醸し出されているのはここに住んでいる人たちに問題があるのか、ないのか、たぶん前者であることは間違えないのだがそんなこと口に出そうものならかっ消されてしまうので口にはしない。
(まぁ、そんなこと言われてもここの人たちにとったらどうでも良いのかもしれないけれど)
はぁ、とため息をこぼしながら扉の目の前に立ち、忌々しい扉め・・・とまるで親の敵のように扉をにらみながら私は右手をあげ扉を叩こうと手を握り締めた。ツナはさっさと渡してさっさと帰ってくればよいなんて言っていたけれど今までの経験上ヴァリアー相手にそう簡単にはいったためしはない。
だって、相手はあのヴァリアーの人たちなんだ。それにそう簡単にすむというならツナが行けば良かったんだ。
なのに誰も行きたがらないからといって私に押しつけるなんてツナも10年たって、大分図々しくなったらしい。
確かにツナの机の上に積まれた膨大な書類を目にすれば、同情心もわいてくるけれど、それとこれとは別でありヴァリアーへと届ける書類をせっかくの休日をエンジョイしていた私に押しつけてくるなんてツナを恨みたくなってしまう。 いや、別にここに来るのがいやだというわけではない。
ただ、どこぞやの自称王子やらボス崇拝者さんに会うとなると面倒くさくなることはわかりきったことで、自称王子のわがままにつき合わされたり、ボスの話を延々とされたり……思い出される数々の記憶はさらに私の気持ちを憂鬱にさせて扉を叩こうとする決心を鈍らせた。
二人が今日ここにいるだなんて確証はまったくもってない。 だけど、ここの人たちは本当に仕事をしているのかと思ってしまうくらい私が訪問する日に限ってみんなそろっていたりする。
それなのに、頻繁にヴァリアーの功績を耳にするからイヤになる。
「・・・おまえ、何してんだぁ?」
「あ、スクアーロさん」
なかなか扉をたたけずに悶々と考え込んでいた私に声がかけられる。どうやらどこかに行っていたらしいスクアーロさんが私と同じように大きめの封筒を手にしてすぐそばにたっていた。
きっと扉の目の前で考えこんでいた私はスクアーロさんから見たら不審者のようだったんだろう。
わずかに眉を寄せて、伺わしい視線をこちらへと向けていた。
「この書類をザンザスさんに届けにきたんですよ」
「ならさっさと入れば良いじゃねぇか。ったく…まぁ、気持ちも分からなくもねぇが」
スクアーロさんが忌々しそうな表情で屋敷を見上げた。
「それにここ、みんな来るのいやがるんですよね。私もはっきりいって嫌なんですけど押しつけられたら来るしかないですし、」
「……おまえも言うようになったなぁ」
「さすがに、ザンザスさんの前じゃいえないですけどね。まだ消されたくないですから」
はは、と乾いた笑みを浮かべながら言えばスクアーロさんも同じような笑みを浮かべ「それはそうだなぁ」とつぶやきながら扉に手をかけた。
静かにあいた扉の中に入っていくスクアーロさんの後ろと続き、歩を進める。
「スクアーロさんは仕事帰りですか?」
「あぁ、まぁな。二週間ぶりくらいにここに戻ってきたぜぇ」
「あ、じゃあ私ってラッキーだったんですね。スクアーロさんがいるといないとじゃ大違いですから!」
「……あえて、何が大違いかは聞かないでおくぜ」
****
報告書を届けるというスクアーロさんと一緒にザンザスさんの執務室へと向かう。相手がスクアーロさんと言うこともあってか和んだ雰囲気を感じ、久しぶりのスクアーロさんとの会話を楽しんだ。 やはり同じボンゴレファミリーとは言っても直接会えることも少なくて、会ったときには会話が進むもの。
特にスクアーロさんは私の気持ちをわかってくれるし、スクアーロさんの気持ちも私はわかるものだからさらに話は弾む。
うふふあはは……とまではいかないけれど(というかスクアーロさんはそんな笑い方はしない)最近仕事に追いやられていた私には大変癒された。
ここに来るまでにはいろいろ葛藤があったけれど、やはり来て良かったかもしれない。
そんな風にまで思ったとき、私とスクアーロさんの間を一つの何かが通り過ぎていった。 間と言っても語弊がある。どちらかと言えばスクアーロさんよりにその何かは通り過ぎ、そしてスクアーロさんの私も常々うらやましいと思っている綺麗な髪が数本宙へと待った。
もちろん普段ならその何かが飛んでくる前にスクアーロさんは気づいていただろう(私はちょっと危ういけれど)しかし、今は私もスクアーロさんも会話に夢中で気がゆるんでいた。
それに、ヴァリアーの屋敷内。
別に敵の心配をするような場所でもないことがさらに私たちの気を許していたんだろう。
(そういえば、いたよ一人。こういうことする奴が)
「っ!何しやがる!」
キッとスクアーロさんがその何かを投げたであろう人物がいる後ろへと視線をやる。私も一瞬呆然としたけれど、すぐに振りかえり、目を細めて相手をにらんだ。
「あーあ、はずれちったか」
「ベルセンパイもまだまだですねー」
「バカ。わざとに決まってんだろ」
こちらをにやにやとした笑みでみているのはナイフを投げた張本人であるベル。そしてその隣にはいつも通りやる気のない表情をうかべたフランくんがいた。
もう既に何かが通り過ぎていった時点で誰かは想像できていたので驚くことはなかったけれど、いきなりナイフを投げつけられた怒りを押さえることはできない。
スクアーロさんも「う゛お゛ぉい」と眉を寄せながら、怒りの表情を浮かべている。
「それにほらぁ。隊長と先輩、あんたのせいでかんかんですよ」
「気づかないほうが悪いだろ」
気づかないほうが悪い…だと?
まさか本当にそう思っているというのなら、ベルは一般常識について勉強するべきだと思う。
ふつう、ナイフを投げられて、投げられる前に気づくほうが数少ない。それに、ナイフを投げることじたいもはや犯罪である(もう既にマフィアではあるが)それなのに悪びれた様子もなく、淡々とした様子。 いや、少し面白がっている節さえもある。
「スクアーロさん、やりましょうか」
ボソッとつぶやいた一言にスクアーロさんは「?」と訝しげに小さい声で私の名前を呼んだ。けれど、名前を呼ばれたくらいでは私の動きは止まらず、そのとき既に私は臨戦態勢にあり、仕込んだ拳銃に手をかけていた。
たぶんこのときの私の目はすわっていたことだろう。
「絶対、ぶっ倒す」
「う゛ぉい?!」
「わー」
「へぇ、面白いじゃん」
ベルの手がナイフを持つ。フランくんは巻き込まれたくないのかさっと横へとよけ、スクアーロさんは焦った声で私とベルの名前を呼んだ。
しかし、既に足は床を蹴り止まろうとはしなかった。
「あら〜、じゃない!」
そんな私たちを止めたのはルッスーリアさんだった。
この人、とてつもなく空気が読めないんだろうかと思ってしまう登場の仕方に私もベルも動きをとめてしまう(ベルの場合は私の動きがとまったから、とめたようにも見えたけれど)
そしてそのままルッスーリアさんは小指をたてた手を振りながらこちらへと走りより、私の体をがっちりと抱きしめた。
拳銃をふれていた手は、離れじたばたと空中をかく。
(骨が数本死ぬ・・・!)
ギリギリと抱きしめられて、もはや私は呼吸すら満足にできないようになっていた。そんな私を助けてくれたのはやっぱりスクアーロさんで、ルッスーリアさんから引き離してくれる。
荒い呼吸を繰り返しルッスーリアさんを見上げれば「本当に久しぶりねぇ」と嬉しそうに言われて骨を何本か逝かされそうになったにも関わらず私は何も言うことができなかった……ルッスーリアさんにはとことん何でかわからないけれどとことん弱い自覚はある。
「折角おもしろそうなことになりそうだったのに。オカマが邪魔さえしなければなー」
「オカマって誰のことよ?!」
「もしかして自覚なかったんですかー」
「フランまで!!」
ルッスーリアさんがキィィと歯を食いしばりながらベルとフランくんの目の前へと立ちふさがる。既にルッスーリアさんのおかげ、といって良いのかはわからないけれど冷静さを取り戻した私は一歩ルッスーリアさんから距離をとり、スクアーロさんの隣へとたった。
いつの間にか落としていた書類を見つけ、しゃがみ込んで手に取る。
(重要な書類を、)
先ほどの自分の考えなしの行動を思い出しため息をついた。どうやら自分が思っていた以上にストレスがたまっていたんだろう。普段ならベルの行動なんて気にするだけで無駄だと思うのに、今日はそれができなかった。
やはりストレスは地味に発散しておかなければいけない。
…今日は帰りに喫茶店でゆっくりお茶でも飲んでかえるうかな。
そう思いながらぼんやりとルッスーリアさんたちのほうへと視線を向ければ、フランくんが私のほうへと駆け寄り私の後ろへと隠れてきた。
突然のことに「え?え?」と戸惑いの声をあげ、目を丸くする。
「先輩助けてくださいですー。」
「ちょっとフラン!でてきなさい!」
私の後ろから顔を出すフランくんと、私の目の前で私の後ろにいるフランくんを睨みつけるルッスーリアさん。
なんだこの何とも言えないサンドウィッチは!そして、挟まれた自分が哀れに思えて仕方がない。フランくんを庇うわけにはいかない上に、ルッスーリアさんにフランくんを差し出すわけにも行かず私は困り果てた。
これがフランくんではなく後ろに隠れたのがベルだったらすぐにでも差し出していただろうし、ルッスーリアさんでなくレヴィさんあたりだったらきっとフランくんを庇っていただろう(別にレヴィさんが嫌いってわけじゃない)
でも、ルッスーリアさんとフランくん相手だとそうはいかない。
ルッスーリアさんは優しくしてくれるし、フランくんは……まぁ、たまに言葉の端々に悪意を感じるけれど先輩といって慕ってくれている。
無理。無理だ。
私にどちらかを選べなんて無理!
「わぁ、の奴固まってるじゃん」
「相手があの二人だからだろうなぁ」
スクアーロさんとベルの声が遠くに聞こえる。既に二人は傍観者を決め込んでいるらしい。いや、ベルに対しては最初っから期待なんてしてなかったけれど、スクアーロさんひどい!
期待していたスクアーロさんにも裏切られ(そんな大げさなものではないけど!)私は打ちひしがれていた。
しかし、この状況をどうにかしなければいけないのはわかりきったことで私は書類を持つ手に力を込めた。
(私ならできる。私ならできる)
「ミーは本当のことしかいってないですよ。変態に変態って言って何がわるいんですかー?」
「キィィィ!あんたって子は!!」
「(……やっぱり無理だー!)」
二人に挟まれ、口を出すことも叶わず疲れはてていた私の耳に「何をしている」と低い声が聞こえた。皆の視線がその声のほうへと向けられる。
私も同じように視線を向ければそこにはザンザスさんと、ザンザスさんの後ろにはレヴィさんがいた。
おいおい、ヴァリアー幹部大集合かよ…決して口に出すことはしなかったけれど、心の中ではぼやいていた。
本当にここの人たちは仕事をしているんだろうか。
10年前から抱える疑問に答えてくれる人は誰もいない。
「こ、こんにちは」
今にも消えそうな声で紡がれた言葉。ちらっとザンザスさんはこちらへと視線をやると目を細めて、「か」と思っていたよりも優しい声色で言葉を紡いで視線をずらした。
先ほどの声色から怒っているのかと思ったけれど、それは私の見当違いらしい。心の中で安堵のため息をつきながらなんとかフランくんとルッスーリアさんの間から抜け出してザンザスさんへと書類を差し出した。
「これ、ツナからです」
「沢田から?・・・あぁ、あの書類か。相変わらず仕事がおせぇ奴だ」
「そういわないであげてください。結構それも急いでがんばってた終わらせたみたいなんで」
ザンザスさんの言葉に苦笑混じりに答える。ふん、とザンザスさんが鼻で笑ってはいたけれどそれ以上ザンザスさんがツナを責めるようなことをいうことはなかった。
まぁ、ザンザスさんもツナと同じように書類地獄に陥ったことがあるのかもしれない。 どんなに傍若無人だとしてもヴァリアーの中で一番偉いし仕事もちゃんとこなしているし。
後ろでボスならあーだこーだ言っているレヴィさんの言葉はもちろん無視させていただく。
レヴィさんのボス談義は今に始まったことではない。
「じゃあ、私も仕事終わったんでこれで失礼しますね」
「えぇーもう帰るのかよ」
「もうちょっといたら良いじゃないですか」
(い や に き ま っ て る)
思ったことは口に出さずに曖昧な笑みをうかべてベルとフランくんに視線を向ける。 どうかこの表情で悟ってくれ。というか、早く帰りたいという私の気持ちを察しろ。そりゃ、ヴァリアーのメンバーがそんな私の気持ちを察してくれる分けない言うことは分かりきったことなので期待はしないけれど(スクアーロさんだけは分かってくれてるとは思う)
「そうよ!久しぶりなんだし、ゆっくりしていきなさいよぉ!」
「お、おぅ。どうせなんだから茶でも飲んでけぇ」
さすがにこの二人の言葉には揺れた。だってルッスーリアさんとスクアーロさんからのお誘い。
いや、スクアーロさんの表情にはおもいっきり「このメンバーでおれ一人とか大変だろぉ!」とでていた。明らかに私を巻き込む気満々の表情に口端がひきつる。
いっつもそんなメンバーの相手を一人でしてるんだから良いじゃないですか。さすがにこんな皆がそろっている中で言うことは出来ないので表情でスクアーロさんに訴えてみる…が、あっさり無視された。 私が高校生の時まではもっと優しかったような気がするのだけど勘違いなのだろうか。
あの優しかったスクアーロさんを返してほしい。
先にいっておくけれど、私の場合はこの10年間で成長したのであって優しさが減少したわけではない。断じて!
「美味い茶を用意させるから待ってろ」
「で、では、ボス!俺が!」
「……変態雷オヤジに美味しいお茶なんて淹れれねぇだろ」
「フラン、貴様!」
ザンザスさんの言葉に逆らえる人なんていない。私はその言葉にフランくんとレヴィさんの言い合いを横眼で見ながらも「ワー、アリガトウゴザイマス」と棒読みの言葉で返し、涙ながらにヴァリアーメンバーとのお茶を楽しんだ。 とても、お茶の時間と言えるほどゆったりした時間ではなかったが。
・・・・それはそれで楽しかったなんて私のきっと思い違いだろう。
休日の条件
(それで…あの、みなさんお仕事は?)
(あらぁ、今有給休暇中なのよね、ボス)
(あぁ)
(いやいやいや!!!)
(2009・12・04)
千夏ちゃんからヴァリアーと!で頂きましたので調子に乗って10年後で書いてしまいました(三十路ラブ)
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