目の前に置かれた紅茶はとても良い香りが漂っていて、すぐにでも手を伸ばしたくなるようなものだった、が、その隣にあるスコーンに私の視線は集中していた。



ある晴れた日のこと前々から誘われていたイギリスさんの家へと私は来ていた。それも、今回は一人で。
いつもなら日本さん以外の他の国の人とあう時はたいてい日本さんと一緒なのだけど今回は日本さんに用事ができてしまい、一緒にはこれなかった。

これが相手がロシアさんやフランスさんだったら絶対に一人で来てはいなかったと思うけれど、今回の相手はイギリスさん。フランスさんからはイギリスさんは元ヤンで変態なのだと聞いてはいたものの、私にとってはイギリスさんは理想のツンデレという認識しかない上に日本さんも私がここに来ることに反対することはなかった。

イギリスさんならヘタれですから大丈夫ですよ、と昨日、日本さんが言っていたのを思い出して思わずイギリスさんへと同情の眼差しを送りたくなった。

そんなことはさておき、こうして私は一人でイギリスさんへの訪れお茶をごちそうになっている。



(紅茶は良いんだよね、紅茶は)



とはいっても、イギリスさんの料理を今まで食べたことはないので何とも言えないのだけど。しかし、今現在目の前に置かれたスコーン。

食べなければイギリスさんに失礼にあたるとは分かってはいたものの、イタリアさんや他の人からも聞いたイギリスさんの作った料理の話を聞く限り食べたくはない。


「イギリスの料理はねー、すっごく美味しくないのー」



へらへらと笑みを浮かべながらイタリアさんは言っていた。あんなイタリアさんではあるけれど、料理を見極める目だけは確かである。
だからこそ、このスコーンからは眼をそらしたい気持ちでいっぱい……なのだけど、目の前にイギリスさんがいてさすがに口にした今まではいられないことは分かりきったことで。
少しだけ、泣きたい気分だ。死なないとは思うものの、笑顔で食べきる自信は私にはない。

今だけ味覚がおかしくなってはくれないだろうか、と半ば本気で考えてたりもする。


「なんだ、どうした?」



優雅に目の前で紅茶を口にするイギリスさん。私は苦笑いをうかべながら、紅茶を手にした。今までイギリスさんの淹れた紅茶は何回も飲んだことはあり、紅茶が凄く美味しいことは知っているから安心なのだけど、問題はその隣にあるものだ。

しかし、何故。

紅茶は美味しく淹れることができるのに、料理は壊滅的なんだろうか。私はそれが気になって仕方がない。でも、アメリカさんなんて小さい頃はイギリスさんの料理を食べて生活していたと聞いたし、そんなに言うほど不味くないのかもしれな…って、駄目だー!アメリカさんは味覚オンチだったー!

それもイギリスさんの料理で育ったから味覚オンチだなんて言っている人がいたような気もする。これは、なんてことだ!頭を抱えたくなる気持ちを抑えて、引きつった笑みのままフォークに手を伸ばす。

大丈夫、大丈夫だ私。頑張れ、頑張るんだ私。負けるな、負けるんじゃない私。



「お、美味しそうなスコーンですね」
「あぁ、まだあるからな遠慮なく食べろよ」


いらないー!



声を大にしてそう叫びたい気持ちだったが、もちろんそんなこと言えるわけないので「ありがとうございます」とだけ言った。心にもないことばである。
ゆっくりと恐る恐る口へとスコーンを運ぶ。すっごく胸が
ドキドキしているが、断じて恋する乙女思考ではないことは先に言っていく。むしろ、ゾクゾクと言ったほうが正しい表現かもしれない。

(気合いだ!)

スコーンがもう少しで口へと入る、その瞬間に窓が思いっきり開き突風が部屋の中へと入り込んできた。思わず手を止めて、視線を窓の外へとやる。


「えっ、えっ?!」
「あいつら!」


あいつらっていったい誰?と首をかしげながら、スコーンを皿の上へともどしてイギリスさんに視線をやる。眉の間には皺がより、一つ溜息をこぼした。
この状況上手くいけば、スコーンをたべずに済むかもしれない。咄嗟にそんな考えが思い浮かび、身を乗り出すかのように机の上に手をおいてイギリスさんのほうへと体を乗り出した。


「今のは一体何なんですか?それに、あいつらって」


私の言葉にイギリスさんは言葉を濁しながら視線をあちらこちらへと彷徨わせる。明らかにあやしい態度。これは何かある、と思いさらに問い詰める。このまま注意をスコーンからうつしてやる。そう心に決めながらイギリスさんはこちらへと視線をやると、一息吐いてからやっと口をひらいた。



「あいつらってのはな、そのー」
「誰なんですか?」

「……こいつらだよ」



ほら、さっさと入ってこい。と、イギリスさんが言葉をかけるとあいたままになっていた窓から何やらとても人とは言えないものが入ってきた。小さい人に羽がはえた、本で読んだことのある妖精と言われるようなもの。それに、小さいユニコーン。私の見ているものは現実、なんだろうか。思わず絶句していれば、目の前のイギリスさんは「驚いたか?」と笑った。

そりゃ、もう。これを驚かない人がいたら今すぐ呼んでもらいたい限りである。


「すごい、ですねぇ」
「そ、そうか?」

「はい」


一匹のユニコーンがこちらへとやってくる。まるで撫でてと言わんばかりにすり寄ってくる姿は愛らしくてたまらない。そして、私は可愛いものが大好きであり、知らず知らずのうちに笑みをうかべながらそのユニコーンの顎をなでてあげた。日本さん宅のぽちのように、気持ち良さそうにするユニコーン。
なんだ、この子!少しだけ、ほんの少しではあるがお持ち帰りしたい気持ちになってしまう。



「でも、日本のうちにも似たようなやつらはいたぞ?」

「……」



……えぇぇー。ちなみに、私は今まで日本さんの家で妖精のようなものを見たことなんて一度もない。ちなみに言うなら幽霊の類だって見たことがない。
しかし、はっきりと言い切ったイギリスさんからはとても嘘を言っているようには思わず、それは間違いなく事実なんだろう。イギリスさん。ツンデレという要素の他にも、妖精や幽霊が見えるだなんてキャラとしては凄い際立っているような気がしてなりません。っていうか、凄すぎる。

私とイギリスさんの周りを飛びまわる、妖精もユニコーンの他のものも、凄くイギリスさんに懐いているようだった。


「ん?なんだ、お前ら」と笑顔を浮かべているイギリスさんはやはりカッコイイ人だと改めて感じながら、妖精たちがイギリスさんに懐いている理由が分かった気がする。

普段あまり見せることのない優しい表情をイギリスさんはその時していた。





イギリスさんと妖精たちと戯れていれば、時計が帰りの時刻を指していた。そろそろ日本さんが用事を終えて迎えに来てくれることだろう。
ちなみに、日本さんの今日の用事はフランスさんのところで、らしい。だから、私は連れて行きたくはないと言っていた。


フランスさん、貴方どれだけ信用ないんですか。
私がそう思ってしまうのも日本さんの態度を見ていれば仕方がない話だろう。


時間がないので、紅茶だけを一気に流し込む。手をつけられなかったスコーン。謝りながらも良かった、とホッと息をついたのは内緒の話だ。イギリスさんが立ち上がったのを見てから私も立ち上がり前を歩く、イギリスさんへとついて行く。イギリスさんがドアをあけてくれる。こう言うことがさりげなく出来てしまうところが、さすがイギリスさん、だ。

玄関まで行けば、妖精たちがこちらを見て手を振ってくれる。私もその手に振り返していればイギリスさんが顔をそむけながら口を開いた。


「まぁ、そのなんだ。気に入ったんなら、また見に来い。べ、別に俺があいたいわけじゃないが、そいつらものこと気に入ったみたいだしな!」

「はぁ、じゃあお言葉に甘えて」


私が返事を返せば微笑みを返してくれる。そして、何か思い出したのか「ちょっと、待ってろ」と言って奥へと戻っていってしまった。
妖精たちと目を合わせて首をかしげる。一体どうしたんだろう。視線を廊下の奥へとやりながらイギリスさんを待っていれば紙袋を持って、イギリスさんが戻ってきた。そして、その紙袋を此方へと差し出してきて、私はその紙袋を受け取る。



「なんですか、これ?」

「さっきはスコーン食べれなかっただろう。作りすぎたからな、その、帰ってでも食べろ」



やられたー!と咄嗟に壁に頭突きをしたくなった私の気持ち、ぜひ分かっていただきたい。

まさかイギリスさんがこれほどまでに用意周到な人間だったとは思いもしなかった。だが、せっかくの好意を無駄にすることなんてできるわけがない。
大丈夫、大丈夫だ私。頑張れ、頑張るんだ私。負けるな、負けるんじゃない私。先ほどスコーンを目の前にした時の呪文をふたたび心の中で唱えてみる。しかし、残念なことにまったく効果はなく私の浮かべる笑みは引きつっていたことだろう。
笑顔なイギリスさんとは相反して、心配そうな瞳をむけてくる妖精たち。

あぁ、君たちは私の気持ち分かってくれますか?その瞳が「頑張れ」と言ってるような気がして、私は力なく頷いておいた。




未確認生命体との接触



さん、イギリスさん家はどうでしたか?)
(……日本さん、イギリスさんからスコーンのお土産です)
(……善処します)




(2009・05・24)
イギリスで成り行きで妖精達を見せてもらう話。というか妖精よりもスコーンに重点が置かれているような気がしてならない^q^イギリスのツンデレっぷりとかっこよさが表せずに残念な感じですみません。大好きです。本当に!
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