あぁ、氷帝の男子テニス部の皆様お元気でしょうか。とは言っても昨日会ったばかりなので元気だと思いますが、私は今どうやら絶体絶命な立場にいるようです。周りを見渡せば関西弁の人ばかり。
少しだけ涙目になるのも許してもらいたい今日このごろです。このさい、忍足先輩でも良いと思ってしまった自分に絶望してしまいました。
しかしながら、こんなこと私が心の中でつぶやいたとしても今頃皆様、部活中なんでしょうね。

なんで、私だけこんな目に。なんて思っても後の祭り。そうは分かっていても、そうは思わずにはいられません。


(迷った……)


榊監督から、命令が下ったのは昨日の部活の後のことだった。

「至急大阪に行ってもらいたい。いってよし!」と職員室のドアを開けた瞬間に言われ、私は思わず固まった。もちろん、その時土曜日とは言っても学校に来ていた先生は少なくなく、その場にいた先生たちは一気にこちらを向いていた。

その気持ち、わからなくもないが視線を一気に私を見つめるのはやめてもらいたい。

こんなにたくさんの教師に一気に見つめられるなんて問題を起こすわけもなく平平凡凡に過ごしてきた私の日常ではありえないことで、正直、怖かった。
もちろん榊監督の言葉の意味が分からなかった私は榊監督に詰めより、理由を聞き出した……が、とりあえず榊監督に対する殺意が一層芽生えた、とだけ言っておく。


「四天宝寺を偵察してきてほしい。ついでに、その帰りにコレ、をとってきてくれ。」


今までマネージャーをしてきたけれど、偵察なんて初めてのことだ。それも四天宝寺。四天宝寺と言えば、大阪の学校で行ってきてくれと簡単に言われても簡単に行けるようば場所ではない。
別にこの学校の人たちに悪い思い出はない、わけでもないが、偵察するなんて今更なような気がしてならない。

むしろ一緒に練習したことなんていくらでもあるし、と首をかしげながら監督から渡されたプリントに紙に目をやる。そして、私は監督が私を大阪へとやる本当の理由を知った。


「ついでにとってきてもらいたのはコレなのだが、」

プリントに印刷された文字。そして陶器の写真。



……私はパシリじゃねぇよ!


思わず口調が荒くなってしまったのは許して欲しい。そのぐらい榊監督への不満が一瞬のうちに募ったのだ。しかし、一応偵察と命名されている以上、マネージャーとしてはいかないわけにもいかず私は朝も早くから新幹線へと乗り込み、ここ大阪の地へと訪れたのである。


(だけど、まさか迷うとは)


監督からもらった地図があるものの、普段歩き慣れた道ではないのでよく分からないというのが本音。だけども、やはり助けの電話をかけるのは私のプライドが許すはずがない。
忍足先輩なんかに聞けば一発で分かりそうだけど、忍足先輩に頼るなんて絶対に嫌だ。それなら迷子です、と交番へと行ったほうが何倍もましだと思う。

しかし、そんな私を神は見捨てないでくれていたらしい。



「あれ、ちゃんやないか?」
「白石さん……!」



あぁ、白石さんの後ろに後光が見える!普段から何やらキラキラとしているイメージがある白石さんだけども、今は何倍も何十倍にも輝いて見えた。

毒手を持ってるとか言われてたり、エクスタシーなんて言葉を使ったりするけれど、私にとっては良い人で代わりなく、私はこちらを見て首をかしげた白石さんのほうへと駆け寄った。
制服姿にラケットの入ったバックを背負っているところを見ると、今から部活のようだ。

思わずラッキーと握りこぶしを心の中で握った。



「こないなところで珍しいなぁ。」
「あ、はい…榊監督のお使いで」



さすがに偵察に来ました、なんて言えるわけもなく誤魔化した。だけども、ぶっちゃけ白石さんに言った理由のほうが、こちらに来た理由としては大きい。
絶対に監督にとっては偵察なんて二の次で、私にあれを取らせにいくことのほうが大きかったんだろう。

まったくもって、マネージャーは選手の、ましてや監督のパシりじゃないということを言い聞かせてやりたい。



「そうか……なら、うちんところ寄っていかんか?」
「えっ、良いんですか?!」

「あぁ、あいつらも喜ぶやろうしな」



はいきた、目的達成!やっぱり白石さんは同じ関西弁でもどこぞやの丸メガネ先輩とは大いにちがう。それはあの先輩のいとこさんにもいえたことなんだけど、どうして忍足先輩はあんなにも胡散臭く見えるんだろうか。本当に不思議だ。
私は白石さんのご好意に甘えて、四天宝寺へと向かう。イケメンと道を歩くのは、本来の私なら絶対にしたくない嫌いな行動だけどもここは大阪。
今後来ることもないだろうと思うと、足取りは軽く、そして目的が達成できたこともあってか意気揚揚とした気分で白石さんと共に学校へと向かった。






***





「あ、や!!」

四天宝寺までつけば、そこにはもう何人かの部員が集まっているようだった。それも、どうやら私の見知った顔が多いところを見るとレギュラーの人たちがいるらしい。
こちらを見て、叫ぶ金ちゃんに思わず苦笑が漏れそうになりながら、その場にいた人たちに頭を下げた……のだけど、頭を上げた瞬間に金ちゃんが私に激突してきた。

ぐっと、曇った声が出たのはご愛敬だ。



「うわぁ、うわぁ。久しぶりやん!今日はどないしたん?!」



金ちゃんが抱きついたまま、飛び跳ねる。あ、この子私を殺す気だ!多分、きっと周りで見ていた人もそう思ったこと間違いないだろう。近くでこちらを見ていた財前くんがとても可哀想なものをみるような眼で私を見ていた。

そんな目で見るくらいなら助けてほしい。

だけども、目の前で嬉しそうに抱きついてくる金ちゃんを前に私の願いが声になることはなかった。
しかし、そんな中でも金ちゃんの保護者代表の白石さんは「こらこら、金ちゃんあかんやろ」と言って、金ちゃんを咎めた。


「え〜」
「……な、金ちゃん?」

「っ!!」


白石さんが包帯に手をかけた瞬間、金ちゃんは顔色を一気に変えて私から離れた、はぁと息を吐く私に千歳さんが「大丈夫?」と声をかけてくれた。
さっすが基本、優しい人ばかりの四天宝寺。千歳さんを見上げながら、近くで毒手がどうのこうの言っている金ちゃんと白石さんに極力見ないようにしてお礼を言った。


金ちゃんいわくの白石さんの毒手。あながち、嘘じゃなさそうな気がぷんぷんしていて、私はなるべくそのことに触れないようにしている。
白石さんのあの手の犠牲になるのは絶対にお断りしたい。



「それにしても本当珍しかね」
「なんや、こっち来たんは用事か?」

「あ、はい」



謙也さんの言葉にうなづく。偵察に来ました!という言葉は今回も呑み込んでおく。それに、本当に理由が榊監督が注文していた陶器を取りにきたなんて言ったら、絶対に同情した目で見られること間違いない。
正直、財前くんあたりにまたあの可哀想なものをみるような眼で見られたら立ち直れる気がまったくもってしない。



「じゃあ、俺着替えてくるから。ちゃん、またあとでな」



ひらひらと手を振る白石さんにあはは、と笑みを返す。金ちゃん、は毎回のことながら石田さんの後ろに隠れて怯えたように白石さんを、正しくは白石さんの左手に視線をやっていた。


「……」
「気にしたら負けや」


いつの間にか隣に来ていた財前くんが呟く。私も、そう思うよ。テニス部のマネージャーになっていらい、全部が全部気にしたらだめだ、ということを私はいつの間にか学んだ。
そして、これまた四天宝寺の人たちは神出鬼没らしい。
フッと目の間に現れた小春さんに「ほんま、久しぶりやなぁちゃん。はい、飴ちゃん」と言って飴を渡された。

浮気かぁなんて叫んでいる一氏さんはみなかったことにしたいと思う。



「あ゛ぁ゛?お前には関係ないやろ、一氏」
「小春!……しゃーない、このさい



先ほどのチャーミングな高い声とはうってかわり、とてつもなく低い声な小春さん。本当に同一人物か問いたい限りである。そして、おいおい、このさいって何ですか一氏さん、と声をかけるよりも早く、小春さんが再び口をひらいた。


「汚い手で、にさわるんやないでぇ?」

怖えぇぇ!!



小春さん、男前過ぎて怖いです!



それはどうやら一氏さんも同じ気持ちだったようで青ざめていた。それを呆れたように見る財前くん。あれ、私こんな光景見覚えがあるくない?それも氷帝で。
なんだか、親近感がわいてしまうのも仕方がない話だと思う。財前くんのあの表情。まったくもっていつも私が氷帝でしている表情と変わらない。

でも、私からしてみればよっぽどここの人たちのほうがまだ常識がある。財前くんも一週間…いや、三日くらいあの人たちと行動を共にしたらここの人たちのありがたみがわかるだろう。



「あ、オサムちゃんや」
「今日は来るの早かったなぁ」



こちらのコートへとゆっくりとした歩みで歩いてくる人影に反応して、私もそちらのほうへと視線をやる。ボソッと「いつもは競馬にいってくるからもっと遅いのになぁ」と謙也さんが呟いた言葉は無視だ。
私は何も聞いていない。榊監督も教師として良いのかと思っていたが、ここの教師もあまり大差ないらしい。いや、それともテニス部の顧問に変わり者が多いのだろうか?
まぁ、変わり者の多いテニス部をまとめるんだから、顧問も同じように変わり者じゃないと務まらないのかもしれない。

渡邊先生は私に気づくと目を丸くして、少しだけ驚いた表情を見せた。


「あ、なんや、ちゃんやないか」
「渡邊先生、失礼しています」


挨拶をしっかりとすれば、偉いなぁ、と渡邊先生からガシガシと頭をなでられる。髪の毛が崩れるくらいにぐしゃぐしゃとされていれば、「オサムちゃんセクハラばい」とやんぱりと千歳さんがとめてくれた。


「セクハラって…」
「あながち間違ってないスよ」


哀れ、渡邊先生。金ちゃんにいたっては「大丈夫なんかぁ?」と言って、こちらを見上げてくる。どれだけ信用がないんだろうか、この先生とは思ったがあえて口にすることはなかった。
どんまいです。
そして、そうこうしているうちに白石さんがユニフォームに着替えてこちらへとやってきた。


いよいよ部活が始まるらしい。集まっていたレギュラーたちもあたりに散る。


もちろん、偵察なんて言われてはきたけれど、偵察を真面目にするつもりない私はペンも紙も持ってきていない。あとで榊監督には一言「さすが四天宝寺でした」とでも言っておけば大丈夫だろう。
私はどこにいれば良いんだろうか、と思いあたりを見渡せば目の前に来ていた白石さんが声をかけてくれた。


ちゃん、あっちのベンチ座ってて構わんから」
「分かりました。頑張ってくださいね」


私がそう言えば「そう言われたらかっこいいとこ、見せなあかんなぁ」と言って白石さんは微笑む。そして、まだその場にいた金ちゃんは笑顔で再び私に抱きついてきながら「なぁなぁ、練習終わったら遊びにいこな!」と言った。もちろん、断る理由なんてあるはずもなく私はうん、と頷いていた。


「約束やで!」
「ほら、金ちゃんその前に練習やろ」


ずるずると、金ちゃんを引きずっていく白石さんがお母さんに見えたことを一言付け加えておく。




ぜんざいORたこ焼き?








(2009・04・29)
四天宝寺ALLのギャグ。そして、 白石と金ちゃん贔屓リクエストでしたが書き慣れないメンバーなので、キャラが 全 然 違 う !そしてどこらへんがギャグなのか・・・・・・OTL
なちゅさま、す、すみませんでしたぁぁぁ!!(土下座
ちなみにタイトルは40.5巻ネタから。
でも四天宝寺書いたら、財前くんブームが…!謙也ブームも来てます(聞いてないよ)
財前くんの好みのタイプは家庭的な子。平凡主で一ネタかきたくなるんですけど!あ、すみません黙っておきます。お口にチャック
。・x・。

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