まさにありえねー、ってことはこう言うことを言うんだと思う。私の目の前でにらみ合っている(というよりはお互いただ見ているだけなんだと思うけれど、双方目つきが悪いためににらみ合っているように見える)(あ、ちょっとそこのお兄さん。逃げないで私を助けて)二人に私はもう冷や汗だらだらで、さらに言うのならば周りの人たちの視線が気になって仕方がない。

おい、こらそこ。よけるな。

道行く人たちはにらみあう二人と、私の半径2メートルには近寄らないように歩いていっていき、まるで私までよけられているかのような錯覚に陥ってしまう。



私だってよけれることならよけてさっさと家に帰ってしまいたい。しかし、どちらも私の知り合いであることには変わりがなくここで先に帰ってしまったら後々、大変なことになることは容易に推測でき帰るに帰れなかった。


(…誰か助けて)


内心涙ながらに訴えながら、どうしてこんなことになってしまったのか私は記憶をさかのぼっていた。どうすればこんなことに遭遇しなくてよかったのか。今更そんなこと考えても無駄だということはよくわかっているが、考えずにはいられなかった。



だってまさか日吉との本屋巡りツアーの最中に雲雀さんに遭遇するなんて誰が予測できただろうか。
予知能力のない私にはもちろんそんなこと予知できるわけがなく、日吉と歩いている途中に後ろから声をかけられて振り返ればそこに雲雀さん。そして今の状態へとつながっている。
群れていることが大嫌いな雲雀さんの前で、群れていたのが悪いのか雲雀さんの機嫌はいつも以上に悪い気がしないこともない。


誰か助けてくれ。テレパシーを受信できる人物を思い浮かべながら助けを求めるがテレパシーを受信できる人物に心当たりなんてなく私はただただ溜息をついた。

唯一、私の何か電波的なものを感じ取ってくれそうな人物が思い浮かんでしまったが奴がこの場に来たらもっと面倒臭いことになることはわかりきったのでこの案は却下だ。
それも噂しただけというか、考えていただけでもあいつなら現れかねないのでさっさと奴のことは頭から追い出すことにする。



「僕の前で群れるなんて良い度胸してるね、ねぇ、?」



雲雀さんがやっと視線を日吉から私に移して告げる。あぁ、これ死刑宣告か何かですか。と、雲雀さんから告げられた一言に頬の筋肉が痙攣を起こしたんじゃないかと思うくらい引きつった。
隣に立っていた日吉も普段感じることのない殺気にか表情がこわばっている。


「…お前、こいつと知り合いだったよな」
「うん」


「じゃあ、何でこんなに殺気立ってるんだ」


そんなの私が聞きたいです。内心ではそう答えながらも、私はただ苦笑を日吉に返すことしかできなかった。
だけど、日吉が雲雀さんのことをよく知らないということもあるが、雲雀さんのことをこいつ呼ばわりできる人なんてほとんどいないだろう。さすが、日吉。先輩たちを鼻で笑うだけはある……ちょっとした現実逃避をしてみたが、現状は一切かわることはなく冷たい風が吹いている。



「覚悟は、できてるかい?」


できてるわけがありません。



それもなんの覚悟だ!覚悟!と聞きたくてたまらないが、聞かなくてもわかってしまうところが悲しい。はい、きたこれトンファーだよ絶対。当たってほしくはない予感だけど、トンファーで殴られることは間違いないだろう。雲雀さんの瞳が生き生きしているように見えるのは私の勘違いなのか。


…たぶん勘違いではない。女の子をトンファーで殴りつけるのも如何なものかと思うが、こんなに生き生きするなんてどんだけアンタSなんだと問いただしてやりたい。
同じくSな人を私は知っているが(もちろん、今私の隣にいる人物のことである)日吉はどんなにSであったとしても女の子にだしたりはしない。


まぁ、雲雀さんの場合は私が強いと勘違いしているから面白い戦いができるなんてまったくもって見当違いのことを考えているというのも、要因の一つであるが。
言っておくけど、私はちょっと護身術をかじったくらいの人間でありまったくもって戦えない。

せめて雲雀さんが文科系のなよっとした男子だったら私にも喧嘩で勝算の一つや二つくらいあったかもしれないが、雲雀さん相手には無理だ。この人こんなに華奢な体をしつつ自分よりごつい男たちを今まで何人(…いや、何百人も、か)も葬っているのだ。



あ、くる。そう思った瞬間に雲雀さんはいつものようにどこからだしたか分からないトンファーを手に持ち肩にかけた学ランが風に揺らめいていた。私はそれを見つめることしかできず、振りかざされたトンファーに咄嗟に反応することができない。
しかし、トンファーが風を切った鈍い音がしたにもかかわらず、私に痛みは一切おそってくることはなかった。閉じていた瞼をあけて、目の前の光景に目を見開く。



「…アンタ、どういうつもりだ」

「へぇ、なかなかやるね」



私の目の前には日吉の背中。こ、これは!もしかしなくても日吉が私をかばってくれたのだろうか。トンファーを腕で受け止めている日吉に感動を覚えてしまう。古武術っ…!日吉が古武術やってて本当に良かった!

だけど、戦い狂な雲雀さんは日吉にとめられたトンファーに嬉しそうに僅かに頬をあげて笑っていた。
これはまずいことになった。あの戦い狂な雲雀さんのことだ、容赦なく日吉に戦いを挑むかもしれない。けれど、日吉はテニス部員なのだ。怪我なんてさせるわけにはいかない。それに私のせいで怪我なんてさせたんでは後味が悪すぎる。



「ちょ、雲雀さん落ち着いてください!いや、本当マジで…!」



すでに私の声なんて雲雀さんの耳には届いていないようで、こちらに視線をくれはしたものの無視された。私なんで、この人の下で他校なのに風紀の仕事してるんだろう(あ、怖いからか)(…泣きたい)
一歩後ろへとさがると、雲雀さんは体制をととのえる。日吉もそれを見て、古武術の構えをした。


(日吉に怪我をさせたなんて知られたら私、殺される…!)


日吉は大切な氷帝テニス部のレギュラーだ。レギュラーであるのも理由にあるが、日吉はもともと顔も整っているのでファンも多い。そんなファンの子たちに日吉に怪我をさせたなんて知られたら、私は絶対に学校に通えなくなってしまう。更には、ぼっこぼこにされられるということも考えられないことではない。

要するに私はどっちにしても、ぼこぼこにされるということらしい。

それが雲雀さんからか、女の子からか、はあまり大差ないけれど女の子のほうがねちっこく大けがだけでなく精神的にも攻撃されそうで怖い。



どっちにしても、私ぼっこぼこなのか!



泣きたくてたまらない。だけど、日吉と雲雀さんが戦った場合、多分雲雀さんのほうが優位であるのは確かだろう。日吉は確かに強い。
だけど、雲雀さんは今まで何回も死闘をとおりぬけてきた男なのだ。伊達に不良の頂点なんかには君臨していない。息をのみ、二人を見つめる。どうしよう、どうしよう。
このままじゃ、絶対にだめだ。あぁ、もうこの際私が盾になるしか方法はないのか!


僅かに乱れる呼吸に、助けを呼ぼうにも声がでない。周りで見ている人たちは遠巻きでそそくさと歩き去ってしまい助けてくれる気配さえない。この根性無し共!……私も多分こんな光景に出くわしたら絶対に無視を決めつけることは間違いないが、あまりに周りの人たちの態度が気に入らずに心の中で叫んでいた。
二人の視線があわさり、場の空気変わる。やばい、と思った瞬間にこの場に似つかわしくない声が私の後ろから聞こえてきた。



「馬鹿だねぇ、二人とも。女の子を待たせるなんてことしちゃダメだろう?」



馬鹿はお前だぁぁぁ!!



後ろを振り返ればそこにいたのは、わが兄である吾朗。気配も一切しなかったので驚いたが、吾朗の登場に日吉も雲雀さんも目を丸くして驚いている。どうやら二人も吾朗がここまで近づいていることに気付かなかったらしい。
町中の人たちは私たちの半径2メートルには近寄ろうとしていなかったらこんなに近づいていれば絶対に気づいたはずなのに。


どれだけ影が薄いんだよ、お前。


にっこりとほほ笑みながらいう吾郎は周りの女の子、いや男の子の視線さえも集めるくらいに可憐で綺麗な微笑みだった。が、しかし、私は内心ひやひやものである。吾郎がここにいることは問題がない。
だけど、二人に向けていった言葉が大問題である。

日吉だけなら後で精いっぱい謝れば大丈夫そうだが、雲雀さんには謝るなんて行為は通用しない。土下座しようとも、私を許すことはないだろう。たぶん、トンファーで思いっきりぼこぼこにされて気がすんだところでやっと解放なんてことも考えられないことではない。

そんな考えが私の頭の中に浮かび、一気に血の気がなくなるような気がした。



馬鹿って、馬鹿って言っちゃったよ…!



さっき吾郎のことなんて一瞬たりとも考えてしまったのが悪かったのか。なぜこの男が、ここに現れたのかしらないけれど、空気を読むのが上手いのか下手なのか、どちらとも言えない登場である(言った言葉は空気を読めていない言葉だ)



「雲雀、さっき並盛の風紀を乱してるやつらを見かけたんだけど…今は日吉くんよりもそっちのほうが優先じゃないの?」
「……」



吾郎にそう言われると雲雀さんは日吉を一瞥してから私に視線を向け「今度群れてるところを見たらただじゃおかないから」と一言残しトンファーをなおし、踵を返して歩き出していた。
吾郎にどこにそんな奴らがいたのか聞かなくて良いのかとも思ったけれど雲雀さんのことだ、並盛センサーでもついているんだろう。雲雀さんなら聞かなくてもわかっていそうである。


「それにしても雲雀もわかりにくいねぇ。ただじゃおかない、だって…!」


そう言って笑いをこらえる吾郎。だけど、ハッキリ言ってもうすでに顔はにやにやとしており笑いをこらえられてはいない。私と日吉は顔を見合せながら、二人してはぁと深く息を吐いた。


「日吉ありがと。」
「…気にするな」


先ほどのことに対して礼を言えば、視線をそらされる。でも、視線がそらされ中がらも耳とうなじがわずかに赤らんでいることに気づき、プッと噴き出して笑ってしまった。日吉が照れるなんて珍しいこともあるものだ。

吾郎はやはり空気が読めないのかそんな日吉を見て「日吉くんが照れてるー!」と今度こそ大笑いし始めてしまい、助けてもらったにも関わらず日吉になんか悪いような気がした。ごめん、日吉。今日は一日日吉に面倒をかけっ放しだったと改めて思い返し申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、雲雀さんが最後にいった一言も思い出してしまい、今度から街中を歩くときは気をつけようと心に決めた。


ドS VS ドS




(2009・02・28)

雲雀VS日吉。漫画を超えた戦いです(笑)50万ヒットのアンケートを参考にしようと思ったんですがどっちもどっちな票数だったので今回はドローです。言うならば吾郎の一人がち(えぇ)面白いリクエストありがとうございましたv

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