一気に信号を無事渡りきったところで「!」と声をかけられ私はその声のしたほうを振り返った。「ゲッ」と零したその一言はその男に紡がれることはなかったのか満面の笑みでこちらへと走りよってくる男に私は思いっきり眉を潜める。

見覚えのあるその人物。本来ならこんなところにいるはずはないはず……なんだけど。



「よっ、!久しぶりだな」
「……切原、あんたこんなところで何やってんの」



立海大付属テニス部自称エースである切原は神奈川に住んでいるはず。それなのに何故こんな場所にそれもこんな時間にいるんだろうか。眉をひそめながら切原に視線をやれば、私の表情なんてこれっぽちも気にしたようすはなく淡々と切原は述べた。


「いや、先輩達とここらへんの神社に来たんだけどさ、に会いに抜け出してきただよ」

「うざ」
「ひっでー!折角、このエースの俺が会いに来たって言ってやってんのに」


何様だこの男。別に私は会いたかったわけではない。あぁ、切原の保護者もなにしてくれてるんだろうか。切原の保護者とはもちろん、立海のメンバーのことなんだけども、どうせ切原のことだ。
あの人たちにここまで来ているなんて連絡の一つもいれてないんだろう。

切原はただの馬鹿だし、多分先輩達が心配しているなんて思いやしないはず(……いや、まぁ、あの人たちが切原を心配しているとはあまり思えないけど)それに私に会いに来たことと、切原がエースなことはまったくもって関係ないと思う。切原はことあるごとにエースエースと自己PRしすぎだ。

若干、というか私にしてみたら結構うざったい。


「はいはい、ありがとう。じゃあ、さよなら」
「俺の扱いひどすぎじゃねぇ?」


眉を寄せて悲しそうな顔をする切原はまるで犬みたいだ。普段はイメージ的に猫のようだけれど、今切原の頭には耳が見えるような気がする。少し苛めすぎたか、と切原に声をかけようと思ったけれどそれよりも早く「ま、会えたから良いか」と顔をあげた。
この男、どれだけポジティブな思考の持ち主なんだろうか。あながち、仁王さんが以前言っていた「赤也は単細胞だからのぉ」という言葉は嘘じゃないかもしれない。いや、むしろ事実だろ。



「でも、まさか本当に会えるとは思わなかったぜ!俺、運良すぎだと思わね?」
「じゃあ、私の運は最悪だよ」



これ以上うざったい態度をとられるのも困るので私はひっそりと呟いていた。案の定、切原には聞こえなかったらしい。私に満面の笑みを向けている。やはり美形なだけあってか、かっこいいその顔に通りすがりの人たち(主に女性)の視線は集まっていた。

大通りなだけあって人通りが多いのが裏目にでてしまった。

不良や痴漢にあうことはないけれど、それよりも恐ろしい嫉妬の視線。それも大晦日というカップルイベントのありそうな今日はさらに視線がいたかった。私たちがカップルで今から神社に行くようにでも見えているんだろうか。それなら早急に眼科にいくことをお勧めするのに。
片方は嫌な顔を思いっきりしていて、片方は満面の笑みをうかべているカップルなんてあまり存在して欲しくはない。



「でも、良いわけ?他の人たち今頃切原のこと心配してるんじゃないの?」
「あの人たちが心配なんてすると思うか?あの人たちだぜ?」



私の言葉に切原は思いっきり眉をひそめた。確かにあの人たちが切原を心配するなんて思えない。でも、何だかんだ言って切原は可愛がられていると思う。

そりゃもう、ある意味酷い方向に。

だけど真田さんなんかは本当にお父さんみたいだから、切原が迷子になってるんじゃないかと今頃心配してるんじゃないだろうか。ついでに言わせてもらえば勝手に抜け出したりして、この男あとあとどうなるか考えてはないんだろうか。考えられるかぎり、真田さんからはいつものごとく鉄拳が、柳さんと柳生さんからは小言がとんできそうな気がするんだけど。
まぁ、切原は馬鹿だからそんなこと気づかないんだろう。なんていったって単細胞。



「それに部活が始まったら会えねぇしな」
「まぁ、東京と神奈川だからね」



王者立海、の名だけあって練習量も半端なく、もちろん氷帝だって負けないくらいの練習量をこなしている。だからか、時間をとることが中々叶わず立海の人たちとはあまり会うことはない。青学の人や不動峰の人たちとはたまに街で会ったりはするけど。
そう思いながら視線を切原のほうへとやり、私は思いっきり眉をひそめた。しかし切原は私の表情の変化に気づいてはいない。

とりあえず心のなかでご愁傷様、切原、と唱えておいた。



「へぇ、赤也も随分偉くなったものだねぇ。」



まるで悪魔……いや、魔王のような声だ。切原の肩に手を置いた人物に切原の肩は思いっきりはねた。恐る恐るといったようすで振り返る切原があまりに哀れ。魔王もとい、幸村さんは笑顔をうかべてはいるものの黒いオーラが背中から滲み出ている。

ぶっちゃけ悪いことをしたわけじゃない私も恐い。

幸村さんの後ろには立海のメンバーが立っていて、私はただ切原が皆から責められている様子を呆然と見ていることしかできなかった。



、久しぶりじゃのぉ」
「仁王さんとはこの前会ったばかりですけど」



いつの間にか私のとなりに移動して肩に手をおいてきた、仁王さんの手を思いっきりつねる。それでも顔色一つ変えない仁王さんはさすが詐欺師だと思う。つねったところが真っ赤になっていたのが痛々しい。
そんな仁王さんに柳生さんが紳士的に説教しはじめている。それを聞く気のない仁王さん。この人たち本当になんでダブルス組んでいるんだろうか。切原を笑顔で攻め立てる幸村さんと鬼のような形相でにらみあげる真田さんの二人の前で正座をしている切原。ここが道の真ん中であることは彼らの頭の中にはないようだ。

丸井さんとジャッカルさんもその傍らで何か話していて、もはや私としては今のうちに逃げ出したくてたまらない。のだけど…



が来年もあいつらに振り回される可能性は100パーセントだな」


あまりに不吉なことを言う柳さんが仁王さんにかわり私の隣に立っていてそれはできなかった。それも振り回される可能性100パーセントとか、ありえない。しかし、柳さんから言われると絶対そうなりそうで恐すぎる。あぁ、私の来年。来年こそは平和に暮らしたかったのに、という切実な私の願いはどうやら届きそうにないらしい。





(2008・12・31)
赤也(むしろ立海)end
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