チカチカと点滅する青信号。私は息をのみ、一気に走りだしていた。が、しかし、すぐに首へと力が加わり後ろへと倒れそうになる。「ぐっ」と鈍い声が自らの口から発せられ思いっきり首がしまっていた
死ぬ、と一瞬思ったくらいだからかなりの力が首へとかかったんだろう。
後ろに倒れようとする体を必死で踏ん張ろうとするけれど、首にかかった圧力のせいか呼吸を求めてでてきた咳のせいで体に力が入らずに私はそのまま後ろへと倒れてしまった。



(あれ…?)



ゴホゴホとでてくる咳をとめることもできないまま、私は倒れると思ったのに、ぽんっと誰かの胸に支えれていた。よかったとは思いながらも、元もとの原因は多分この私を支えてくれた人にある。この人が私の襟元を引っ張り呼吸を止めた人と見て間違いないはずだろう。

そのままの体制で私は視線を上にあげた。それと同時に黒い影がかかる。私の瞳には逆さまの状態の雲雀さんの顔が飛び込んできた。


「えっ、ちょ、えぇ?!」


私の顔を覗き込んできているのか、雲雀さんの顔があまりに近いところにあり焦ってしまう。けれどそんなこと雲雀さんは特に気にした様子もなくただ一言「危ないだろう」とだけ言った。
いやいや、あなたのほうが数倍も危ないですから!……とは思っても声にだせないことは分かりきったことだろう。

でも、確かにあの信号を渡ろうとするのは危ないことだとは思うが思いっきり走り出そうとした人の襟元を引っ張ることはもっと危険なことだ。それも雲雀さんのように力がある人が引っ張ればどうなるか、なんて考えなくてもわかるはず。まぁ、雲雀さんがそんな人のことを考えてくれるとは思わないのだけど。


ここは雲雀さんが、一応心配してくれたということにしておこうと思う。うん、そうだ。ポジティブにいこう、自分。


雲雀さんは私の息の根をとめたかったわけじゃない。ただ単に危ないからと心配してくれたんだ。あの雲雀さんが心配してくれたんだ。良しとしよう。自分に言い聞かせるように心の中で呟きながら、私は雲雀さんから体を離し向かいあった。



「で、君はこんな日に自殺でもしようとしたわけ?」
「いえ、そんな滅相もない……」



睨みつけられて思わず萎縮してしまう。私は最後の最後までこんな目にあってしまう運命なんだろうか。正直、神様を恨みそうである。雲雀さんの後ろに黒いオーラがでているような気がして冷や汗がとまらない。
ただアイスを買いにいこうとしただけなのに、なんでこの人はこんなところにいるんだ。風紀の見回りかと思ったけれど、雲雀さんは普段とは違い私服を身にまとっている。雲雀さんの私服なんて一年に一回見れるか見れないかくらいのレアなものなので内心驚きなのだけど、さすがに表情にはだせない。というか、出したら殺されるに違いない。

最後の最後で雲雀さんにあっただけでなくトンファーで殴られるなんて勘弁して欲しい。



「…ごめんなさい」
「分かれば良いんだよ」



どうして私は謝ってんだろう。そう思ったけれど雲雀さんが私の頭に手を伸ばすと優しくなでるから何もいえなくなってしまった。その手つきは雲雀さんとは思えないくらい、優しい。もしかしたら雲雀さんは本当に私のことを心配してくれたのかもしれない。
だとしたら、なんだか居たたまれない。折角心配してくれたのに、悪いことをしてしまった。


(いや、でも雲雀さんが本気で心配するなんて思ってなかったし…)


私の頭を撫でるのに飽きたのか雲雀さんが手を離す。さて、やっと解放されると安堵したのもつかの間、目の前の雲雀さんはニヤリと嫌な笑みをうかべた。



「でも、手間がはぶけたよ。今からの家に行くつもりだったからね」
「え゛っ?!」
「今日は見回りがあるって言ってただろう?」


(そんな話聞いてないんですけどー!!


「ほら、さっさと行くよ」



私が文句を言う前に雲雀さんは私の手をとると前を歩き出す。えぇー、ちょ、私のイチゴアイスー!雲雀さんの手は暖かくて離しがたいけれど、それとこれとは問題は別だ。私はイチゴアイスを買いにここまできただけであって、決して風紀の見回りをするためじゃない。
それに雲雀さんだって今現在私服だし、見回りの時は基本学ランの雲雀さんにしては可笑しすぎる。

なんとか、できないだろうかと思いながら早足で雲雀さんの後をついていく。


「ひ、雲雀さん!私早く帰らないと吾郎に怒られちゃいますし、」
「もう既に連絡してるから安心しなよ」

「(この人、仕事早すぎるんですけどー!)」


こうなってしまった雲雀さんはもう誰にも止められないんだろう。それにしてもいつの間に吾郎に電話をかけていたのか不思議でたまらない。恐くて携帯を見ることはできないけれど吾郎から着信やメールがたくさん来ていそうでゾッとした。
多分、雲雀さんのことだ。連絡といっても言いたいこと言って吾郎の了承もなしに電話を切ったに決まっている。家に帰ったときの吾郎の反応を思うと、頭が痛くなってきたような気がしてきた。

私が悪いわけじゃないのに……ちょっと、泣きそうだ。



それでも、この暖かい手を離したくはないと思ってしまう自分もいて、私はため息を一つだけ零して顔をあげた。いつの間にか振り返っていた雲雀さんと目が合うと、雲雀さんは僅かに口端をあげて微笑んでいた。

「新年一番最初にに会うのは僕と決めてたんだよ」

あと、僕が一番最初に会うのは君だとも。ゆっくりと紡がれた言葉に思わず言葉をなくしてしまう。だけど、「ついでだから、初詣もしていこうか」と、言いだした雲雀さんに私は思わず素直に「はい」と返していた。




「……群れすぎ。咬み殺
「いやいや、駄目ですから!!」





(2008・12・31)
雲雀end
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